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網膜神経線維層欠損と黄斑前膜との関連について
-網膜神経線維層欠損と黄斑前膜との関連について-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2017年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただいた40歳以上の男女1775人を対象に、眼科検診の結果に基づいて、網膜神経線維層欠損と黄斑前膜との関連について検討し、専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Sci Rep. 2020年1月ウェブ公開)
網膜神経線維層欠損とは、視神経乳頭から扇状に広がる神経線維が欠損することで、視野障害がおこる前に、最も早期に生じる緑内障性眼底変化です。緑内障は視神経が障害され、視野欠損を生じる疾患で、日本では視覚障害原因の1位となっており、早期の治療が重要です。
一方、黄斑前膜とは、網膜の中心である黄斑の前に張る線維状の薄い膜で、この黄斑前膜ができると、視力の低下や、ものがゆがんで見えたり(変視)、小さくみえる症状(小視症)が生じます。黄斑前膜の形成の原因はよくわかっていませんが、他の眼科疾患の2次的に生じる場合もあります。網膜の病気の中では多い病気で、40 歳以上のおよそ20 人に1 人に生じると報告されています。
この2つの病気(網膜神経線維層欠損と黄斑前膜)がしばしば合併することは臨床的には知られていましたが、どちらも年齢とともになりやすい病気であることもあり、その関係はよくわかっていませんでした。また、網膜神経線維層欠損や視神経乳頭陥凹の拡大などの緑内障に特徴的である眼底所見と、黄斑前膜との関連について、地域住民を対象とした大規模な疫学研究の報告はありませんでした。
研究方法の概要
本研究では茨城県筑西市で眼科検診を実施した中で、研究参加に同意のある40歳以上の男女1990人のうち、鮮明に眼底写真を撮影できた眼科手術歴のない1755人を対象としました。
網膜神経線維層欠損や視神経乳頭陥凹の拡大といった緑内障所見や、黄斑前膜をはじめとする網膜疾患は眼科医により眼底写真を用いて診断されました。視神経乳頭陥凹拡大の定義は視神経乳頭陥凹と視神経乳頭の垂直方向における最大径の比が0.7以上としました。また、網膜神経線維層欠損や黄斑前膜の原因となる虚血性網膜症などの他の網膜疾患は解析対象から除外しました。
網膜神経線維層欠損と黄斑前膜の有病は関連していた
左右どちらかの眼における黄斑前膜の有病率は12.9%で、高齢になるほど有病率が高いことがわかりました。また、黄斑前膜を持つ対象者では、近視の程度が弱く、網膜神経線維層欠損の所見が多く見られました。
年齢、性別、屈折値などの影響を統計学的に考慮した解析では、網膜神経線維層欠損があると、黄斑前膜の有病が統計的有意に2.48倍高いことがわかりました。しかし、視神経乳頭陥凹拡大の所見がある対象者では関連は見られませんでした。
図.網膜神経線維層欠損、視神経乳頭陥凹拡大と黄斑前膜の関連
まとめ
本研究では、網膜神経線維層欠損があると黄斑前膜の有病率が高いことがわかりました。一方で、乳頭陥凹拡大ではそのような関係は見られませんでした。視神経乳頭陥凹拡大は、緑内障でみられる眼底所見ですが、個人差が大きく、網膜神経線維層欠損のほうが緑内障所見としてより特異的であるため、今回の結果では黄斑前膜との関連が見られなかったものと考えられます。
今後の研究の必要性
この結果から、緑内障に特徴的な網膜神経線維層欠損という眼底所見と黄斑前膜が関係することが明らかになりました。今回の研究は、横断研究*であるため、因果関係を明らかにするにはさらなる検討が必要ですが、原因が明らかでない2つの疾患に共通の発生要因がある可能性を示す重要な結果であると考えられます。
*横断研究はある集団のある一時点での疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を同時に調査し、関連を明らかにする方法。
(引用:日本疫学会 疫学用語の基礎知識l)