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近視と角膜内皮細胞異常との関連について
-近視と角膜内皮細胞異常との関連について-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2015年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただき、緑内障や眼科手術歴のない40歳以上の男女5,713人を対象に、眼科検診と問診票の回答結果に基づいて、近視と角膜内皮細胞異常との関連について検討し、専門誌に論文発表しましたのでご紹介いたします(Sci Rep 2021年3月 ウェブ公開)。
近視は、眼球が前後方向に伸びることで、ピントの位置が、スクリーンにあたる網膜よりも前にくるため、遠くがぼやけて見える状態のことです。先進国やアジア各国では、生活環境の変化から、近視の割合が急増しており、現在では世界人口の約3分の1の方が近視であると報告されています。
角膜とは、いわゆる黒目の部分のことで、透明なドーム状の構造をしています。角膜は、涙と眼内の水に挟まれ、常に水に漬かった状態にありますが、角膜が水を吸って膨らむと、角膜が濁ることがあります。これを防いでいるのが角膜の内側を裏打ちしている角膜内皮細胞で、通常は、角膜内皮細胞がポンプのように角膜の外に水を汲みだすことで角膜の透明性が保たれています。角膜内皮細胞は眼の手術、長期間のコンタクトレンズ装用や、加齢により徐々に減少することが報告されており、角膜内皮細胞が減少することは視力の低下につながる可能性があります。
これまでに近視と角膜内皮細胞に関する疫学研究は少なく、その関連は良く分かっていませんでしたが、近視の割合が増えるに伴い、角膜内皮細胞との関連を検討することは重要となってきました。そのため、本研究では、近視と角膜内皮細胞異常との関連を調査しました。
研究方法の概要
茨城県筑西市で眼科検診を実施した中で、研究参加に同意のある40歳以上7,109人のうち、緑内障や眼科手術歴のない5,713人を今回の分析の対象としました。
遠視、正視、中等度近視、強度近視の定義について
今回の研究では、等価球面度数注1)を用いて以下のように定義しました。
・遠視:等価球面度数が+0.5 ディオプター(D)を超えるもの
・正視:等価球面度数が+0.5Dと‐0.5Dの間にあるもの
・(軽度~中等度)近視:等価球面度数が‐0.5D以下かつ‐6.0Dより大きいもの
・強度近視:等価球面度数が‐6.0D以下のもの
注1)等価球面度数とは、屈折の度数と乱視の度数を総合したもので、どの程度の近視、遠視なのかを示す数値のことで、マイナスの数が大きいほど、近視の度合いが強くなります。
角膜内皮細胞密度、変動係数、六角細胞出現率の定義について
きく)となったり、六角細胞が少なくなります。変動係数及び六角細胞出現率は角膜内皮細胞の形態をみる指標であり、今回の研究では、角膜内皮細胞密度と角膜内皮細胞の形態の指標について以下のように定義しました。
・角膜内皮細胞密度:正常では2500個/mm2程度(2000個/mm2以下は異常)
・変動係数:正常では0.25-0.3(0.40以上は異常)
・六角形細胞出現率:正常では60-70%(50%以下は異常)
上記の定義を用いて、近視の程度と、角膜内皮細胞密度、変動係数、六角細胞出現との関連を検討しました。
女性において強度近視と角膜内皮細胞形態異常(変動係数異常及び六角細胞異常)との関連が示された
男性(2,331人)では近視度数と内皮細胞形態異常との関係はみられませんでした。一方、女性(3.382人)において、強度近視では、正視と比較した際に、角膜内皮細胞形態異常(変動係数異常及び六角細胞異常)の相対的な危険度(オッズ比)が高くなることが示されました(図1)。さらに、コンタクトレンズ装用歴の有無を統計学的に調整した場合でも、その関連が弱まったものの、同様の結果が示されました。
まとめ
本研究では、40歳以上の女性において、強度近視では正視と比較して角膜内皮細胞形態異常の有病率が高いことが示唆されました。先行研究では、若年の男女において、強度近視と角膜内皮細胞形態異常との関連がある可能性が示唆されていましたが、男女別の報告はありませんでした。男性と女性では角膜内皮細胞数に差があると考えられ、特にアジア人では女性の角膜内皮細胞数が少ないとの報告があり、角膜内皮細胞自体の脆弱性(傷つきやすさ)に差がある可能性が考えられます。
今後の研究の必要性
今回の研究では、女性の強度近視が角膜内皮細胞形態異常と関係することが示されましたが、横断研究であるため因果関係を明らかにするには更なる検討が必要です。また、コンタクトレンズ装用歴を調整した結果では、関連が弱まったことからコンタクトレンズの装着がこの結果に一部影響していると考えられます。今後、強度近視の発生と角膜内皮細胞形態異常を追跡調査した前向きコホート研究での検討が必要です。