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食事調査票から得られたイソチオシアネート摂取量の正確さについて ―尿中イソチオシアネートと比較して―

―次世代多目的コホート研究からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。食生活と健康との関連を明らかにする研究では、一人一人の食生活を正しく把握することが重要です。次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)では、習慣的な栄養素や食物の摂取量を把握するため、食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いた調査を実施しています。FFQは、過去1年間の食事摂取状況を思い出して答えていただくため、摂取量を正確に推定できているか(妥当性)、間隔を空けて調査をしても同様の結果を得られるか(再現性)の確認が不可欠です。

本研究では、JPHC-NEXTのベースライン調査で使用した、詳細版FFQ(172項目)より推定したアブラナ科野菜由来のイソチオシアネート摂取量について、FFQや実際の詳細な食事内容を把握できる食事記録調査(WFR)、および、客観的な指標である尿中のイソチオシアネートを用いて、妥当性および再現性を検討した結果を専門誌に報告しましたので紹介します(Eur J Clin Nutr. 2021年7月Web先行公開)。

 

イソチオシアネートについて

キャベツ、だいこん、ブロッコリーなどのアブラナ科野菜にはグルコシノレートという化合物が含まれます。このグルコシノレートがミロシナーゼと呼ばれる酵素のはたらきによって加水分解されることで、生理活性を持つイソチオシアネート(辛味成分)に変換されます。
しかし、アブラナ科野菜に含まれるミロシナーゼは酵素(たんぱく質)であるため、熱を加えることで、生理活性が失われます。このことから、イソチオシアネート摂取量を正確に推定するために、アブラナ科野菜の調理法(加熱の有無)を考慮して検討しました。
本研究では、加熱調理を行った場合はミロシナーゼの活性がなくなっているためイソチオシアネートは産生されないと仮定し、イソチオシアネート含有量は「0」として計算を行いました。

 

研究方法の概要

2012年11月~2013年12月に、JPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市にお住まいで40-74歳までの240名(男性98名、女性142名)の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFR、冬と夏2回の24時間蓄尿(蓄尿1および2)、1年間隔で合計2回のFFQ(FFQ1および2)にご協力いただきました。(図)

図. 研究デザイン

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イソチオアシネート摂取量の検討について
1. 12日間のWFRより算出したイソチオシアネート摂取量の平均値と、その後のFFQ2より推定したイソチオシアネート摂取量について、冬(蓄尿1)と夏(蓄尿2)の尿中イソチオシアネート平均値を基準として、それぞれの相関係数を、調理を考慮した場合としなかった場合の2通りで計算しました。(表1-A、表1-B)
2. FFQ2より推定したイソチオシアネート摂取量と、WFRより算出した摂取量との相関係数を、調理を考慮した場合としなかった場合の2通りで計算しました。(表2)
3. 1年間隔で2回答えていただいたFFQより、イソチオシアネート摂取量をそれぞれ推定し、調理を考慮した場合としなかった場合の2通りの相関係数を計算しました。(表3)

相関係数が1に近づくほど、イソチオシアネート摂取量が正確に推定できている(妥当性がある)、または間隔を空けて調査をしても同様の結果を得られる(再現性がある)ことを示しています。

 

妥当性について

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調理の考慮の有無にかかわらず、WFRと尿中イソチオシアネートの相関は男女ともにある程度の正確さがあることがわかりました。

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FFQ2と尿中イソチオシアネートの相関については、調理の考慮の有無にかかわらず、女性である程度の正確さがみられましたが、男性ではあまり良くありませんでした。

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FFQ2と12日間のWFRの相関については、女性では、調理の考慮の有無にかかわらず、ある程度の相関がみられましたが、男性ではやや低い結果でした。

 

再現性について

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1年間隔で実施したFFQ(FFQ1とFFQ2)より推定したイソチオシアネート摂取量の相関係数は、調理の考慮の有無にかかわらず、男女ともにある程度の相関があることがわかりました。

 

この研究結果からわかること

これらの結果から、FFQより推定したイソチオシアネート摂取量は、男性で妥当性がやや低かったものの、女性では妥当性および再現性は、ある程度の正確さがあることがわかりました。また、加熱調理による影響を考慮した場合でもしなかった場合においても、同様の相関でした。イソチオシアネートは、加熱調理によって減少すると考えられていますが、一部のグルコシノレートは、腸内細菌の働きによって、イソチオシアネートに変換されるため、調理による影響が小さかったことが考えられました。
表1-Bの結果において、FFQと尿中イソチオシアネートとの相関が低かったのは、アブラナ科野菜は、比較的冬に多く食べられるという、夏と冬におけるアブラナ科野菜の摂取量の違いによる季節差が、FFQの回答に影響を与えた可能性が考えられました。そのため、冬に収集したFFQ、WFR、尿中のイソチオシアネートの相関を検討したところ、相関係数が改善しました(結果表示なし)。このことから、FFQの回答時期によってアブラナ科野菜の摂取量にばらつきが生じる可能性があるため、本研究結果は、注意深く解釈する必要があります。
この結果は、今後、JPHC-NEXTでイソチオシアネート摂取量とがん、脳卒中、心筋梗塞などとの関連を調べる際の重要な基礎資料となります。

 

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