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糖尿病を有する人における脂肪酸摂取量と糖尿病網膜症の関連について
糖尿病を有する人における脂肪酸摂取量と糖尿病網膜症の関連について
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2015年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただき、研究開始時のアンケートで糖尿病があると回答した方、または健診結果から血糖値が高かった(糖尿病を有する)40歳以上の男女647人を対象に、眼科検査ならびに問診票の回答結果に基づいて、脂肪酸摂取量と糖尿病網膜症の関連について調べ、専門誌に論文発表しましたのでご紹介いたします。(Sci Rep. 2023年8月ウェブ公開)。
糖尿病網膜症は、糖尿病により生じる細小血管合併症で、主な視覚障害の原因となっています。2020年における世界の糖尿病網膜症患者は約1億3102万人、そのうち約2854万人で視力障害が生じていると推計されています。脂肪酸は、食事に含まれる重要な栄養素であり、特に魚に含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸は、加齢黄斑変性症という目の病気のリスクの低下と関連することが報告されています。また、多価不飽和脂肪酸の摂取もリスク低下に寄与する可能性が示唆されており、飽和脂肪酸の摂取では糖尿病のリスク増加と関連することが報告されており、脂肪酸摂取は眼疾患および糖尿病の発症に影響を与える可能性が考えられます。しかし、脂肪酸の摂取量と糖尿病網膜症との関連についてはよくわかっておらず、アジアからの報告もありません。そこで、本研究では、糖尿病を有する地域住民を対象に、脂肪酸摂取量と糖尿病網膜症との関連を調べました。
研究方法の概要
茨城県筑西市で実施した眼科検診を受診し、研究に参加した40歳以上の男女7,090人のうち、糖尿病を有する647人を今回の研究の対象としました。
糖尿病網膜症の診断には眼底写真を用い、Early Treatment Diabetic Retinopathy Study (ETDRS)分類に従って、眼科医が診断を行いました。脂肪酸摂取量は、食物摂取頻度調査票から推定し、総エネルギー摂取量に対する割合を算出しました。
本研究では、対象者を総脂肪・各脂肪酸摂取量が少ない順から人数が均等になるように4つのグループ(四分位:Q1~Q4)に分類し、総脂肪・各脂肪酸摂取量の最も少ないグループを基準として、他のグループの糖尿病網膜症の有病率を比較しました。
総脂肪、飽和脂肪酸の摂取量の増加とともに、糖尿病網膜症の有病率が増加した
糖尿病を有する647人のうち、100人が糖尿病網膜症を有していました。総脂肪、飽和脂肪酸では、摂取量が多いほど糖尿病網膜症の有病率が高く、総脂質、飽和脂肪酸の摂取量が最も少ないグループと比べて、最も多いグループでは、それぞれ、2.61倍、2.40倍高くなりました(図1)。その他の脂肪酸と糖尿病網膜症との関連はみられませんでした。
図1. 総脂肪・脂肪酸摂取量と糖尿病網膜症の関連
※年齢、性別、総エネルギー摂取量、喫煙歴、飲酒量、HbA1c値、収縮期血圧、脂質異常症の既往、体格、クレアチニン値、ビタミンC・ビタミンD・αトコフェロール・βカロテン摂取量を統計学的に調整
まとめ
本研究から、糖尿病を有する人では、総脂肪、飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、糖尿病網膜症の有病率が高いことが分かりました。これまでの研究では、飽和脂肪酸と糖尿病網膜症との関連は一致していませんが、飽和脂肪酸の過剰摂取は様々な健康問題と関連していることが知られています。世界保健機関(WHO)は、総脂肪摂取が総エネルギー摂取の30%を超えないよう勧告しており、さらに飽和脂肪酸摂取を総エネルギー摂取の10%未満に抑え、不飽和脂肪酸の摂取を増やすことを提唱しています。アジア人は西洋人に比べて飽和脂肪酸を含む食品の摂取量が少ない傾向にあります。本研究においても、平均総脂肪摂取量と飽和脂肪酸摂取量の摂取エネルギーに対する割合が、それぞれ22.0%、7.3%と米国の国民健康栄養調査と比べて低い値でありながら、総脂肪や飽和脂肪酸摂取の増加が糖尿病を有する人における糖尿病網膜症の有病率に影響を及ぼす可能性が示されました。
本研究は横断研究であるため、飽和脂肪酸摂取多いと糖尿病網膜症になるのか、糖尿病網膜症の方では飽和脂肪酸摂取量が多いのかといった、因果関係を明らかにはできません。これらの因果関係を明らかにするためには、前向き研究をはじめ、さらなる研究が必要です。