現在までの成果
血中ポリフェノールの再現性と食品群との関連について
血中ポリフェノールの再現性と食品群との関連について
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。食生活と健康との関連を明らかにする研究では、一人一人の食生活を正しく把握することが重要です。
これまでに、血中ポリフェノール濃度を用いた前向きコホート研究が行われていますが、多くは一時点のみの血液を使用して行われていることが多く、血中ポリフェノール濃度について、間隔を空けて調査をした場合に同様の結果を得られるか(再現性)は明らかではありませんでした。次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)プロトコル採用地域では、調査開始時と1年後の血液を集めていることから、本研究では、二時点の血中ポリフェノール濃度を測定し、再現性を確認しました。さらに、食事記録(WFR)および食物摂取頻度調査票(FFQ)より推定した食品群摂取量との関連についても検討を行いました。その結果を専門誌に報告しましたので紹介します(Eur J Clin Nutr 2023年10月Web先行公開)。
ポリフェノールについて
ポリフェノールは、お茶、コーヒー、穀類、豆類、野菜、果物等様々な植物性食品に多く含まれます。近年、ポリフェノールが持つ抗酸化作用、抗炎症作用、エストロゲン様作用により、がん、循環器疾患、認知症などの生活習慣病を予防することが期待されています。体内に入ると、腸内細菌叢の働きにより、低分子のフェノール酸などに代謝され、吸収されます。
研究方法の概要
2012年11月~2013年12月に、JPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市、新潟県魚沼市にお住まいだった40-74歳の227名の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFR(秤量食事記録調査:比較的正確な習慣的摂取量と考えられます。図のWFR1からWFR4)、1年間隔で合計2回の採血(図の血液1および2)、1年間隔で合計2回のFFQ(食物摂取頻度調査票、図のFFQ1および2)への回答にご協力いただきました。
そのうち、ポリフェノールの測定が可能であった221人(男性80名、女性141名)を今回の研究の対象としました。
図. 研究デザイン
血中ポリフェノールの再現性の検討について
2012年11月および2013年12月に1年間隔で収集した、合計2回の血液(それぞれ血液1および2)について、35種類のポリフェノールを測定し、その測定値の再現性を示す指標である級内相関係数(1に近づくほど再現性が高い)を計算しました(表1)。
お茶に多く含まれる、没食子酸(0.77)、ケルセチン(0.66)、エピガロカテキン(0.61)、ケンペロール(0.55)、そして、ケルセチンから生成される代謝物である、イソラムネチン(0.68)また、主にコーヒーに多く含まれるカフェ酸(0.55)、フェルラ酸(0.53)で再現性が比較的高いことがわかりました。また、アルコール類に多く含まれる、チロソール(0.53)やカテキンが腸内細菌によって代謝されることで生成される、4-ヒドロキシ安息香酸(0.53)においても、中等度の再現性が確認されました。
血中ポリフェノールと食品群との関連について
血液1を用いて測定した上述の35種類の血中ポリフェノールと、4季節×3日間(計12日間)のWFRより計算した食品群摂取量(WFR1~WFR4の平均)、および、血液1と一番近い時期の1季節のみ3日間のWFR(WFR1)より計算した食品群摂取量の相関係数を算出しました(表2)。
血中ポリフェノールとの相関が0.3以上であった食品群、および、食品は、全ての飲料、アルコール以外の飲料、全てのお茶、緑茶、アルコール飲料、日本酒でした(表2)。12日間WFRから算出した食品群摂取量と血中ポリフェノールにおいては、全ての飲料とエピガロカテキン(0.44)、エピカテキン(0.47)、カテキン(0.35)、没食子酸(0.35)で中等度の相関が確認されました。アルコール以外の飲料摂取量と血中ポリフェノールの相関でも、同程度の相関が得られました。これらのポリフェノールは主にお茶に多く含まれるため、全てのお茶では、エピガロカテキン(0.51)、エピカテキン(0.56)、カテキン(0.34)、没食子酸(0.42)、3,5-ジヒドロキシ安息香酸(0.32)と、相関がやや強い傾向であり、緑茶に限定した場合、さらに強い相関が確認できました。また、アルコール飲料および日本酒の摂取量とチロソールについても、中等度の相関がみられました。一方、3日間WFRから算出した食品群摂取量と血中ポリフェノールとの相関は同程度、または、やや低い傾向にありました。
また、血中ポリフェノールと、FFQ1より推定した食品群摂取量との相関では、すべての食品群で相関係数が0.15以下という結果でした(表なし)。
この研究結果からわかること
今回の結果から、血中ポリフェノール濃度の再現性は、お茶由来のポリフェノールである、没食子酸、ケルセチン、エピガロカテキン、ケンペロール、イソラムネチン、4-ヒドロキシ安息香酸、そして、コーヒーに多く含まれるポリフェノールであるカフェ酸、フェルラ酸において、高~中程度の再現性があることがわかりました。また、アルコール飲料に含まれるポリフェノールである、チロソールについても、良好な再現性が確認されました。
12日間WFR由来のお茶の摂取量(特に緑茶)と血中のエピガロカテキン、エピカテキン、カテキン、没食子酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸濃度で中等度の相関があることがわかりました。一方で、血中ポリフェノールは半減期(血中濃度が半減するまでの時間)が短く代謝が速いことから、採血と一番近い時期に記録された3日間のWFRを用いて算出した食品群摂取量と血中ポリフェノールの方が、より相関が高いことが期待されました。しかし、今回の調査では、採血日とWFRを同じ日に揃えることができなかったため、予想外に相関が弱まる傾向が見られました。このことから、12日間WFRの方が、習慣的な食事を捉えられていると考えられました。
ポリフェノールは半減期が短く、血中ポリフェノール濃度は、ポリフェノールを多く含む食品が習慣的に摂取されていない場合、ポリフェノール摂取量の個人内での変化が大きくなることが研究の限界となりますが、比較的習慣的に摂取されている、お茶に多く含まれるポリフェノールである、エピガロカテキン、エピカテキン、カテキン、没食子酸、コーヒーに多く含まれるポリフェノールである、カフェ酸、フェルラ酸の血中濃度の再現性が良好でした。加えて、食事記録によるお茶の摂取量とも相関が比較的高かったことを踏まえると、これらの結果は、今後JPHC-NEXTにおいて、がん、脳卒中、心筋梗塞などとの関連を調べる疫学研究の基礎資料となります。