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主観的な幸福度と緑内障の関連について

主観的な幸福度と緑内障の関連について

  

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23年から28年までに次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の男女約9万2千人を対象に、アンケートの回答結果に基づいて、主観的幸福度と緑内障の関係について専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(BMJ Open Ophthalmol. 2024年2月公開

 

 緑内障は、視神経が障害され、視野(見える範囲)が狭くなったり、視力が落ちたりする病気で、我が国における中途失明原因の第一位を占めています。緑内障は、視野欠損や視力低下により、歩行の困難や、転倒や骨折のリスクの増加、社会的孤立につながることなどから、抑うつ感や不安障害といった心理的な側面もダメージを受けることが報告されています。これまで各国の疫学研究から、うつ病や不安と緑内障の関連についての報告はいくつかありましたが、その結果は一致しておらず、日本人集団においてはよくわかっていません。また、地域住民を対象とした大規模な疫学研究からの報告はありませんでした。そこで、日本人を対象に、自記式質問票で得られた幸福度と緑内障の有病率の関連を横断的に調べました。 

 

研究方法の概要

 本調査では、研究開始時のアンケート調査において、幸福度と緑内障に関する回答が得られた92,397人を対象としました。幸福度については、アンケートの「ご自分がどれくらい幸せだと感じていますか」という質問に対して、「大変幸せ」、もしくは、「幸せ」を選んだ方を幸福と感じている、「どちらとも言えない」、もしくは、「幸せでない」を選んだ方を幸福と感じていない、としました。緑内障の有無については、アンケートの「今までに、医師から次の病気があるといわれたことがありますか」という質問(複数回答可)に対して、緑内障を選択した方としました。
 解析時には、年齢、地域、喫煙状況、アルコール摂取量、身体活動量(METs)、教育歴、世帯収入の影響を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響を出来る限り取り除きました。

 

緑内障がある方はそうでない方に比べて、幸福と感じていない可能性がある

 緑内障がある方は、男性が635名(1.9%)、女性が1,098名(2.1%)でした。緑内障がない方と比較して、緑内障の方は幸福と感じていない割合が男性で26%、女性で5%高いという結果になりました(図1)。加えて、年齢層別の解析を行ったところ、40~59歳の男性で緑内障がある方は、そうでない同年代の男性と比較して、幸福と感じていない割合が40%高いということが分かりました(図2)。

 

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図1 主観的に幸福と感じていない割合

*年齢、地域、学歴、世帯収入、喫煙状況、アルコール摂取量、運動強度(METs)で調整

 

 

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図2 主観的に幸福と感じていない割合(年齢層別)

*年齢、地域、学歴、世帯収入、喫煙状況、アルコール摂取量、運動強度(METs)で調整

まとめ

 本研究から、緑内障があると回答した方では、緑内障がないと回答した方に比べて、幸福ではないと感じる割合が高く、特に若年の男性において、この傾向が顕著であることがわかりました。
 視覚障害は失業や不完全雇用との関連が報告されており、特に、若年の男性緑内障患者は、視野障害の進行による雇用環境の変化や収入の減少に不安を感じている可能性が示唆されます。これらの結果は、緑内障患者における不安や抑うつの危険因子に若年での発症が含まれるという報告と一致していました。今回の知見より、視機能と心理面との間に密接な関係があることへの理解が深まることが期待されます。

今後の研究の必要性

 今回の研究では主観的な幸福度と緑内障の関連について示しましたが、いずれも自己申告に基づいた調査のため、緑内障の重症度の評価が行えていないことなどが、本研究の制限として挙げられます。

 

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