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2024.5.17 飲料とうつ病との関連について

飲料とうつ病との関連について

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで本研究に同意いただいた40歳~74歳の方々のうち、研究開始から5年後の調査時点にがん、心筋梗塞、糖尿病、うつ病の既往がない男女約10万人を、5年間追跡した調査結果にもとづいて、甘味飲料、緑茶、コーヒーといった飲料とうつとの関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Clin Nutr. 2024年4月Web先行公開)。

 これまで、様々な飲料とうつ病との関連が報告されており、複数の疫学研究を統合した結果では、甘味飲料によるリスク上昇、コーヒーや緑茶によるリスク低下が示されています。これは、甘味飲料に含まれる糖分が神経細胞の増殖や分化のために必要な物質(脳由来神経栄養因子)を減少させることや炎症を引き起こすことで甘味飲料はうつのリスクとなり、コーヒーや緑茶は、カフェインなどの抗酸化作用や抗炎症作用からうつに対して予防的に作用すると考えられています。一方で、野菜・果物を摂取することはうつ病に予防的に働くことが先行研究で示されてきましたが、野菜・果物ジュースがどのように働くかは示されていませんでした。また、コーヒーについては、砂糖入りコーヒーおよびブラックコーヒーに分けて検討した研究は限られていました。そのため、私たちは、40-74歳の地域住民男女約10万名を対象としたアンケート調査の結果を用いて、飲料摂取と約5年後のうつ病とのリスクとの関連を調べました。

 

研究方法の概要

 飲料は、ベースラインアンケートの回答結果から、炭酸飲料、野菜ジュース、100%果物ジュース、砂糖入りコーヒー、そしてこれらの甘味飲料全体と、ブラックコーヒー、緑茶に分類し、各種飲料の摂取量について算出しました。その摂取量をもとに、各種飲料を全く飲まない人、少し摂取する人、中くらい摂取する人、多く摂取する人の4グループに分類しました。少し摂取する人~多く摂取する人の分類は、全く飲まない人以外で、同じ人数になるように(三分位)分けました。
 次に、うつについては、ベースラインと5年後のアンケートの、CES-D Scale (Center for Epidemiological Studies Depression Scale)を改変した11項目の質問(11-item CES-D[modified version])により判定を行いました。本研究では、ベースラインの時には8点未満で、5年後に8点以上であった対象者をうつ病とし、各グループとの関連を解析しました。解析時には、年齢、性別、同居者、体格(Body Mass Index, BMI)、喫煙、飲酒、雇用形態、一日の歩行時間、野菜、果物、肉、魚の摂取量、元々あったうつ傾向の程度の影響を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

 

甘味飲料全体、そのうち特に炭酸飲料、野菜・果物ジュース、砂糖入りコーヒーの摂取量が多いとうつ病リスク上昇、一方ブラックコーヒー摂取量が多いとうつ病リスク低下

 甘味飲料、炭酸飲料、野菜・果物ジュース、砂糖入りコーヒーを全く飲まない人と比べて、各飲料の摂取量が多いグループでとうつ病のリスクが2.3%~3.6%高く、ブラックコーヒーの摂取量が多いとうつ病のリスクが1.7%低いことが示されました (図)。

 

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図:飲料とうつ病との関連

まとめ 

 本研究では、甘味飲料、緑茶およびコーヒー摂取量と、その後のうつ病との関連を調べました。今回の研究において、甘味飲料の摂取量が多いとうつ病のリスクは高く、緑茶はうつ病のリスクが低いことが報告されたことはこれまでの先行研究と同様の結果でした。一方、これまでの先行研究では、野菜・果物それ自体はうつ病に予防的に働くことが示唆されていたものの、野菜・果物ジュースについての知見はありませんでした。本研究では、野菜・果物ジュースの摂取量が多いとうつ病のリスクが高いことが示され、野菜・果物をジュースで代用するのは逆効果である可能性が示されました。また、これまで、コーヒーはうつ病に予防的に働く可能性が示唆されてきましたが、砂糖入りか、またはブラックで飲むかでうつ病への影響が異なる可能性があることが本研究で示されました。これらは、糖分による脳由来神経栄養因子の減少や炎症作用と、カフェインによる抗酸化作用や抗炎症作用がそれぞれ影響したと考えられます。本研究から、うつ病の予防のためには、甘味飲料の摂取を控えることが良いと考えられます。諸外国においては甘味飲料に税金を課しているところもあり、売上が低下したこと、また、甘味飲料の商品に健康への注意書きをしたラベル表示により、甘味飲料を選ばなくなったことなど、実際に人々の行動変容に効果があったことも報告されています。
本研究では、40歳~74歳に限った研究であること、精神科医の診断ではなく質問紙でうつ病を評価したことなどから、更なる研究が必要です。
野菜・果物ジュースとうつ病の関連を示したのは本研究が世界初であり、他の国や人種による研究の再現が期待されます。

 

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