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2024.5.31 JPHC-NEXT研究における自己申告によるピロリ菌除菌歴の正確さについて

JPHC-NEXT研究における自己申告によるピロリ菌除菌歴の正確さについて

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。疾病の有無や治療歴を把握する方法として、アンケートや問診への回答を利用する方法がありますが、その回答を研究で利用するためには、その正確さを検証する必要があります。
 本研究では、自己申告によるヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)除菌治療歴の回答の正確さについて、診療報酬明細情報(以下、レセプト情報)に基づいた除菌治療の有無と、アンケート調査や問診の回答が、どのくらい一致するか(妥当性)について調べた結果を専門誌に報告しましたのでご紹介します(J Epidemiol 2024年1月Web先行公開)。

 ピロリ菌は胃がんの重要なリスク要因であり、日本はピロリ菌の感染率が高い国の一つです。日本では平成25年(2013年)2月にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となりましたが、今後、ピロリ菌感染や除菌治療と健康との関連を明らかにする研究では、除菌治療歴の有無を正しく把握することが重要です。次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)では、自記式のアンケート調査の際と、対面での問診調査の際に、ピロリ菌の除菌治療歴について質問を行い、自己申告の除菌歴を調査しています。本研究では、平成23年(2011年)から開始された次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT研究)のなかで、秋田県横手地域、長野県佐久地域、茨城県筑西地域にお住まいの40-74歳の男女のうち、平成23年(2011年)から平成24年(2012年)に実施したベースライン調査と、 5年後の調査で、自記式のアンケート調査もしくは対面の聞き取りで行う問診調査において、ピロリ菌の除菌治療に関する質問に回答し、かつ解析にあたってデータの不足等がないアンケート調査15,760人、問診調査8,006人を対象としました。

 

アンケート調査と問診調査による除菌情報の分類

 「ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法を受けたことがありますか?」という質問に対して、「なし」、「あり(1年未満)」、「あり(1~5年以内)」、「あり(6年以上前)」、の中から回答していただきました。「あり(6年以上前)」と回答した場合は、研究開始前に除菌治療を受けたと考えられ、その回答が正しいかどうかをレセプト情報で確かめることができないため今回の解析から除外しました。「なし」と回答した場合を「除菌療法なしと回答」、「あり(1年未満)」、「あり(1~5年以内)」と回答した場合を「除菌療法ありと回答」と分類し、アンケート調査と問診調査それぞれについて、レセプト情報との比較を行いました。

 

レセプト情報による除菌療法の判定方法

 本研究では、研究開始から5年後調査までのレセプト情報を妥当性検証の基準として用いました。ピロリ菌除菌薬が処方されていた場合を真にピロリ菌除菌治療を行ったとみなし、これに対するアンケートおよび問診における自己申告に基づく除菌療法の有無の、感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度を以下の表1のように算出しました。

 

表1. 本研究における感度・特異度

感度 レセプト情報で除菌治療ありと判定された人のうち、アンケートもしくは問診で除菌治療ありと回答した人の割合
特異度 レセプト情報で除菌治療なしと判定された人のうち、アンケートもしくは問診で除菌治療なしと回答した人の割合
陽性的中度 アンケートもしくは問診で除菌治療ありと回答した人のうち、レセプト情報でも除菌治療ありと判定された人の割合
陰性的中度 アンケートもしくは問診で除菌治療なしと回答した人のうち、レセプト情報でも除菌治療なしと判定された人の割合

 

自記式アンケート及び対面問診調査の結果は、いずれもレセプト情報と一致度が高い 

 レセプト情報と比較した妥当性の検証に、感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度(いずれも単位は%、高いほど精度が高い)および、一致度を評価する指標であるカッパ係数(0~1の値をとり、0.6以上であれば、一致度が十分高い)を算出しました。
 自記式アンケート調査では、感度 95.1%、特異度 90.6%、陽性的中度63.8%、陰性的中度99.1%でした。対面での問診調査では、感度94.4%、特異度88.7%、陽性的中度70.6%、陰性的中度98.2%でした。アンケート調査および問診調査ともに感度、特異度、陰性的中度が高く、陽性的中度はアンケート調査よりも問診調査の方が高い結果でした。カッパ係数はアンケート調査が0.71、問診調査が0.74で、いずれも一致度が十分高いと考えられました(表2)。

 

表2. レセプト情報を用いた自己申告ピロリ除菌療法の感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度、一致率

  アンケート調査 問診調査
感度 95.1% 94.4%
特異度 90.6% 88.7%
陽性的中度 63.8% 70.6%
陰性的中度 99.1% 98.2%
一致率(カッパ係数) 0.71 0.74

 

この研究結果からわかること 

 今回の結果から、自記式でのアンケート調査や対面での問診調査で得られた除菌治療に関する回答は、レセプト情報からわかる除菌治療の有無と良く一致しており、いずれも疫学研究を行うために必要な程度の正確さがあることが分かりました。また、自記式でのアンケート調査よりも対面での問診調査の方が、より正確な回答が得られることが分かりました。この結果は、今後、自己申告の除菌治療に関する回答を用いて研究を実施する際の重要な基礎資料になるといえます。

 本研究の限界として、2013年2月からヘリコバクター・ピロリ感染胃炎はピロリ菌除菌の保険適応となりましたので、それほど該当者は多くないと考えますが、ピロリ菌の除菌治療は自由診療で行われた場合もあり、自由診療の場合はレセプト情報から除菌治療ありと判定されない可能性があることや、レセプト情報がない対象者は本研究の対象ではないこと、などがあげられます。

 

 

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