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2024.6.11 抑うつと骨折リスクとの関連について

抑うつと骨折リスクとの関連について

 私たちは、様々な生活習慣と、がん、糖尿病、心筋梗塞などの病気との関連を明らかにし、日本人の生活習慣予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。2011~2016年に、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)対象地域にお住まいで、本研究に同意いただいた40~74歳の男女約11万人の方々を5年間追跡し、抑うつと骨折の関連について前向きに調べた結果を学術専門誌に発表しましたので、ご紹介します(Osteoporos Int. 2024年5月公開)。
 近年、抑うつは骨折リスクと関連していることが諸外国の研究で報告されていますが、その関連は人種や性別、年齢、骨折部位によって異なっており、さらに 日本人を対象とした大規模な研究はありませんでした。超高齢社会の日本では、骨粗鬆症患者数が増加しており、骨折は高齢者の寝たきりの原因となるところから、その予防は急務とされています。そこで本研究では、調査開始時に骨折の既往があった方や日常生活で介助等が必要な方を除いた68,615人(男性30,552人、女性38,063人)のアンケート調査の分析から、抑うつと骨折との関連を調べました。

 研究開始時点のアンケート調査で、うつ病自己評価尺度として用いられるCenter for Epidemiological Studies Depression (CES-D)Scaleを改変した11項目の質問やうつ病に関連する質問に回答していただき、合計8点以上、抗うつ剤服薬、うつ病の既往歴のいずれか一つ以上に該当した対象者を抑うつと定義 し、「抑うつなし」と「抑うつあり」の2グループに分類しました。
 骨折は、研究開始から5年後に行ったアンケート調査で、過去5年間に医師から「腰」「腕か手首」「大腿骨(太もも)の付け根」の骨折(交通事故、転落、労災事故を除く)のいずれかの診断を受けたことがある、または、手術をしたことがある、と回答した場合を「骨折あり」としました。
 そのうえで、「抑うつなし」グループを基準とした場合の「抑うつあり」グループの骨折リスクを調べました。解析の際には地域、年齢、閉経状況、所得、独居であるか否か、体格指数 (BMI)、喫煙、飲酒、運動、朝食の摂取頻度、既往歴(心臓病、脳卒中、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性閉塞性肺疾患)、骨粗鬆症薬、睡眠薬の影響を統計学的に調整し、これらの影響をできるだけ取り除きました。

女性では抑うつと大腿骨近位部骨折が関連していた

 これまでに骨折のあった方は、1,515人(「腰」335人、「腕か手首」1,048人、「大腿骨の付け根(以下、大腿骨近位部とする)」185人;複数回答有)でした。解析の結果、女性において、抑うつのないグループと比較した抑うつのあるグループの、その後5年間の大腿骨近位部骨折のリスクが高いことがわかりました。(オッズ比:2.78, 95%信頼区間:1.30-5.92)。男性では、抑うつといずれの骨折との間においても統計学的に有意な関連はみられませんでした(図1)。
 女性では、抑うつありのグループで全骨折のリスクも高かったものの、睡眠薬服用で調整すると関連がなくなりました(図なし)。そこで、睡眠薬服用の有無で、抑うつと全骨折リスクをみたところ、抑うつなしかつ睡眠薬なしのグループと比較して、抑うつあり、かつ、睡眠薬服用ありのグループは全骨折のリスクが高いことがわかりました(図2)。

 

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図1. 男女別の抑うつと大腿骨近位部骨折との関連

 

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図2. 抑うつおよび睡眠薬服用の有無と全骨折との男女別の関連

 

まとめ

 本研究では、女性で抑うつがある場合に大腿骨近位部骨折のリスクが高くなり、心の健康を保つことが骨折の予防につながる可能性が示唆されました。抑うつは、骨の健康に良くない影響を及ぼす酸化ストレスや炎症などと関係して います。また、先行研究では、抑うつでは睡眠障害(不眠)が出現することが報告されており、睡眠障害は、体内のホルモンバランスが崩れることで交感神経が過剰に働き、高血圧、糖尿病、心臓病、脳卒中などの病気を介して骨の代謝と構造に影響を与え、骨折リスクが高まる可能性があると考えられます。
 本研究の限界としては、骨折を自己申告で特定しており、症状のある骨折のみが報告されるため骨折リスクを低く見積もっている可能性があること、本研究における骨折の定義では、報告された骨折がすべて骨粗鬆症由来の骨折であるかを判断することができない点があげられます 。また、骨折を評価した5年後のアンケート調査の回答率が、調査開始時に抑うつがある男性で74.3%、女性で79.0%であり、抑うつがない男性で 81.1%、女性で83.6%であったことから、抑うつがある人の割合が低く見積もられている可能性があります。
 日本人を対象に抑うつと骨折の関連を報告した研究は、本研究が初めてであり、今後のさらなる研究の蓄積が必要です。

 

 

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