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食事バランスガイド遵守度と24時間尿中ナトリウム排泄量、ナトリウムカリウム比との関連

食事バランスガイド遵守度と24時間尿中ナトリウム排泄量、ナトリウムカリウム比との関連

 

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。
日本は長寿国の一つで、2024年の世界保健機関(WHO)の報告では平均寿命は世界第1位、健康寿命は世界第2位です。その理由の1つとして、日本人の健康的な食生活が挙げられています。2005年に厚生労働省・農林水産省が策定した食事バランスガイド(図1)では「何をどれだけ食べたら良いのか」について目安が示されています。
 これまでの研究で、食塩や高塩分食品が高血圧等を介して循環器疾患死亡、生活習慣病による死亡リスクを高めることが報告されています。さらに、ナトリウム(以下、Na)単体よりもナトリウムとカリウムの濃度の比(以下、Na/K比)の方が循環器疾患リスクとより強く関連するという報告もあります。東アジアは世界で最も食塩摂取の多い地域となっています。しかし、調味料や塩蔵食品からの食塩摂取量が多い日本や韓国において、それぞれの国の食事バランスガイドには食塩摂取の指標は含まれていません。
 そこで、秤量食事記録調査(WFR:比較的正確な習慣的摂取量と考えられます)を12日間実施した結果(12d-WFR)をもとに、食事バランスガイドの遵守度をスコア化し、24時間蓄尿(食塩摂取量を正確に推定できるとされています)によるNa、カリウム(以下、K)排泄量、Na/K比との関連を調べました。さらに、食塩摂取の指標(塩スコア)を加えた場合についても検討しました。その結果を論文発表しましたのでご紹介します(Clin Nutr ESPEN. 2025年3月Web先行公開)。

 

図1. 食事バランスガイド

(農林水産省HP「食事バランスガイドについて」より)

 

研究方法の概要

 2012年11月~2013年12月にJPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市にお住まいの40~74歳までの235名(男性94名、女性141名)の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFRと、年間通じて5回の24時間蓄尿にご協力いただきました(図2)。

 12日間のWFR平均値を用いて、主食(ごはん、パン、麺類)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻類)、主菜(肉、魚、卵、大豆類)、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料由来のエネルギーの各摂取量を10点満点として評価し、70点満点の食事バランスガイド遵守スコアを算出しました。スコアによって対象者を4つのグループに分け、尿中Na及びK排泄量、尿中Na/K比との関連を重回帰分析で調べました。また、塩スコアとして、塩を多く含む料理(みそ汁、麺類、塩蔵魚、漬けもの)の摂取頻度が少ない(≦10回/週)場合を10点満点としてスコア化し、総スコアに加えた場合の関連も調べました。解析では性別、年齢、BMI、高血圧歴を統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできる限り取り除きました。

 

図2. 研究スケジュール

 

結果

 12日間のWFRによる食事バランスガイド遵守スコア(総スコア)が高いほど、尿中Na排泄量は減少傾向を示し、尿中K排泄量は統計学的有意に増加、Na/K比は統計学的有意に減少していました(1グループ上がるごとにNa排泄量は129mg減少、K排泄量は137mg増加、Na/Kは0.32減少)。また、塩スコアを追加した場合(総スコア+塩スコア)、Na排泄量の減少傾向は顕著になりました(1グループ上がるごとにNa排泄量は218mg減少)(図3)。

 

(クリックで拡大) 

図3 食事バランスガイド各遵守スコア四分位と24時間尿中Na、K排泄量及びNa/K比との関連

 

この研究からわかること

 食塩摂取の指標がなくても、食事バランスガイド遵守によりNa排泄量は減少傾向であり、Na/K比は有意に減少することが示唆されました。このことは、これまでの先行研究で、食事バランスガイドスコアが高いほど死亡リスクが低いことを示していたように、健康評価を行うには妥当であると考えられました。しかし、さらに、塩を多く含む料理の摂取頻度を「塩スコア」として追加することにより、高遵守でNa排泄量減少との関連がさらに強くなりました。今回示した塩スコアを追加した食事バランスガイドでは調味料の塩分量を計算するよりも捉えやすい「塩分の多い食品の摂取頻度」だけで、Na摂取量を評価できる可能性を示唆しており、自分で料理をしない方でもバランスの良い食事をこころがける目安となると期待されます。食塩摂取量を減らす観点では、食事バランスガイドに則ったバランスのよい食事をすることと同時に、塩を多く含む料理を食べる回数に気を付けることも重要です。
この報告をした時点で、研究が実施された2012年から13年が経過しており、日本人の食習慣が変化している可能性は否定できませんが、国民健康栄養調査によると、食塩摂取量は2012年に10.2g、2023年に9.8gであり、依然として減塩が求められる状況です。また、今回の研究には若年層が含まれないため、結果の一般化には注意が必要です。

 

 

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