現在までの成果

自身の出生体重と生殖アウトカム(初経・閉経・月経不順・未経産)との関連について

―次世代多目的コホート研究と山形コホートとの統合解析からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究に同意いただいた方々のうち、母子手帳が普及した1948年以降に出生した約4万7千人の女性(40-68歳)を対象に、自身の出生体重と、思春期・成人期の生殖アウトカム(初経年齢、閉経年齢、月経不順、未経産)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol. 2025年10月公開)。


 これまでの研究から、出生体重が少ない場合、成人期における高血圧、糖尿病や心疾患などのリスクが高いことが報告されています。さらに、先行研究において、出生体重が少なかった女性では、生殖機能に影響を及ぼすリスクが高いことも報告されていますが、関連がないとする報告もあり、一貫性がありませんでした。この要因の一つとして、研究対象が若年層、妊娠を希望している女性、もしくは妊娠中の女性を対象としている研究が多く、女性の生涯にわたる生殖アウトカムを包括的に評価する研究が行われていないことに起因している可能性がありました。また報告は主に欧米、北欧諸国からで、日本人女性の研究は行われていませんでした。そのため、私たちは、40-68歳の日本人女性を対象として、出生体重と思春期・成人期の生殖アウトカム(初経、閉経、月経不順、未経産)との関連を調べました。

研究方法の概要

 自身の出生体重と、生殖アウトカム(初経年齢、閉経年齢、月経不順、未経産)については調査開始時のアンケートの回答から情報を得ました。そして、自己申告による自身の出生体重が3000-3999gのグループを対照群とし、その他の出生体重グループ(1500g未満、1500-2499g、2500-2999g、4000g以上)における生殖アウトカムとの関連を検討しました。初経年齢および閉経年齢については対照群との平均差を、月経不順の既往および未経産については対照群とのリスク比を求めました。その際、地域、出生年、教育歴、幼少期の受動喫煙経験、身長、年上の兄弟の有無、喫煙習慣、20歳時の体格、婚姻歴を統計学的に調整しこれらの影響をできるだけ取り除きました。

 

出生体重が2500g未満の女性では、初経年齢が高く、閉経年齢が低い傾向があり、月経不順の既往があること、未経産であることと関連がみられた 

 出生体重が3000-3999gのグループと比較して、1500-2499gおよび1500g未満のグループで、初経年齢が約2ヶ月遅く、閉経年齢が約3-7ヶ月早い関連がみられました(図1)。その結果、生殖可能期間(初経年齢から閉経年齢までの期間)が約5-8ヶ月短縮される傾向が認められました。また出生体重が3000-3999gのグループと比較して、1500-2499gのグループで、月経不順の既往があること、未経産であることと関連がみられました(図2)。これらの関連を出生年別に解析したところ、出生年が早い集団(1950年代以前)において顕著で、出生年が遅い集団(1960-70年代)ではその傾向はあまり観察されませんでした(図なし)。

 

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図1.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の初経・閉経年齢との関連
*統計学的有意 

 

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図2.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の月経不順・未経産との関連
*統計学的有意

今回の結果からみえてきたこと

 本研究は、出生体重とその後の生殖アウトカムとの関連を初経から閉経まで包括的に報告した初めての研究です。これまでの先行研究では、主に若年女性や妊娠を希望する女性、または妊娠中の女性を対象としたコホートを用いて行われてきました。しかしこのようなコホートでは、女性の生涯にわたる生殖機能を評価することは困難でした。これに対し、本研究は40-68歳の女性を対象としており、大多数が閉経を迎えていました。これにより女性の全体的な生殖期間やアウトカムを包括的に評価することが可能となりました。
 本研究の結果から、出生体重が3000g未満であった女性では、生殖可能期間が短く、また、月経不順の既往があること、未経産であることと関連がみられました。これらの結果は、低出生体重児にみられる出生後の体重増加(catch up growth)による影響や、DOHaD仮説に起因する胎児期の体質変化による影響が一因である可能性が考えられました。本研究は、ライフコース全体にわたる生殖機能の形成において、出生前の要因が重要な役割を果たす可能性を示唆しています。
 また近年、妊婦のやせや、妊娠期間の不十分な体重増加が低出生体重児の出生との関連することが注目されています。日本では、若年女性のやせの割合が他先進国と比較して高いことは広く知られていますが、その女性への健康への影響のみならず、妊娠後に与える児への影響も検討し、より一層の啓発と支援が望まれます。
 本研究の限界点として、妊娠から出産までの期間が把握できていないことや出生時体重を自己申告で行っていることなどがあげられます。また今回の出生時体重が軽いと初経年齢が遅いなどの結果は、1950年代以前に出生した集団で顕著で、1960-70年代に出生した集団ではその傾向はあまり観察されませんでした。そのため、より近年出生の集団でさらなる研究が望まれます。
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 今回の研究は、電子化医療情報を活用した疾患横断的コホート研究情報基盤整備事業の一環で行われました。この事業は、国内の6つの国立高度専門医療研究センターで、健常人を対象としたコホート研究を実施している機関と連携して、疾患横断的コホート研究基盤を形成し、健康寿命延伸に資するエビデンスの構築をめざして行われています。

 

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