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血圧が糖尿病網膜症に与える影響について

血圧が糖尿病網膜症に与える影響について

   私たちは、生活習慣や生活環境と、がんや目の病気などの生活習慣病との関係を明らかにし、病気の予防や早期発見に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住し、2013~2017年に筑西眼科研究(JPHC-NEXT Eye Study)に参加した40歳以上の糖尿病患者1,049人を対象に、血圧(特に収縮期血圧)と糖尿病網膜症の関係が、血糖コントロールの状態によってどのように異なるかを調べ、その結果を専門誌に論文発表しましたのでご紹介いたします。(Sci Rep. 2026年1月 Web公開)

 糖尿病網膜症は、働き盛りの世代における失明の原因の一つであり、糖尿病の一般的な合併症です。世界的には、糖尿病のある人のうち、糖尿病網膜症の有病率は約22%、視力に大きな影響を与える重症型糖尿病網膜症の有病率は約6%と報告されています。また、高血圧は、高血糖とともに糖尿病網膜症の主要な危険因子です。血圧を適切に管理することで糖尿病網膜症の発症や進行を抑えられることは知られていますが、血糖がよくコントロールされている人と、そうでない人で、血圧の影響が違うのかという点は、これまでほとんど調査されていませんでした。そこで本研究では、地域住民を対象に、血糖値の状態別に血圧と糖尿病網膜症の関係を詳しく調べました。

 

研究方法の概要

 茨城県筑西市で2013~2017年に実施されたJPHC-NEXT Eye Studyに参加した40歳以上の住民9,940人のうち、糖尿病があると判定された1,049人を解析対象としました。糖尿病は、糖尿病治療薬の使用、血糖値、またはHbA1c(過去1~2か月の平均血糖を反映する指標)に基づいて定義されました。眼底写真は専用のカメラで撮影され、眼科専門医が国際基準(ETDRS基準)に基づいて糖尿病網膜症の有無と重症度を判定しました。
参加者を
•HbA1c 7%未満(血糖コントロール良好)か7%以上(不良)
•収縮期血圧 140mmHg未満か140mmHg以上
の組み合わせで4つのグループに分け、それぞれで糖尿病網膜症のある人の割合を比較しました。また、血糖コントロールが良好で、かつ収縮期血圧が低いグループを基準にして、その他のグループにおける糖尿病網膜症のオッズ比を比較しました。

 

血糖コントロールが良好な人では、血圧の高さが糖尿病網膜症と関連する

 1,049人のうち136人(13.0%)に糖尿病網膜症がみられました。その内訳は、軽症~中等症の非増殖糖尿病網膜症(NPDR)が82人(7.8%)、重症NPDRまたは増殖糖尿病網膜症(PDR)が54人(5.2%)でした。
 血糖コントロールが良好なグループ(HbA1cが7%未満)では、収縮期血圧140mmHg未満と比べて、140mmHg以上で糖尿病網膜症のオッズ比が2.21(1.16-4.23)となりました。また、血糖コントロール不良(HbA1cが7%以上)では、収縮期血圧の高低のグループにかかわらず、糖尿病網膜症を発症している割合が高く、血圧が低いグループのオッズ比は5.61(3.34-9.41)、高いグループのオッズ比は6.26(3.47-11.29)となりました(図1)。

 軽症~中等症の糖尿病網膜症についても結果は同様で、血糖コントロールが良好なグループでは血圧が高いことが糖尿病網膜症と統計学的有意に関連し、血糖コントロールが不良な人では血圧の高低によらず、糖尿病網膜症の割合は高く、同程度の関連を示しました(図2)。

 一方で、重症の網膜症では、血糖コントロールが良好かつ、血圧が高いグループではオッズ比が1.91(0.66-5.53)となり統計学的有意な関連は見られず、血糖コントロールが不良なグループではオッズ比5.36(2.44-11.77)、7.67(3.24-18.17)と統計学的有意な関連を示しました(図3)。

 

図1.HbA1cレベル別にみた血圧と糖尿病網膜症の有病率の関連

※年齢、性別、脂質異常症、腎機能、喫煙、降圧薬の使用、脂質低下薬の使用、糖尿病治療薬の使用状況で統計学的に調整

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図2.HbA1cレベル別にみた、血圧と軽~中等症糖尿病網膜症有病率との関連

※年齢、性別、脂質異常症、腎機能、喫煙、降圧薬の使用、脂質低下薬の使用、糖尿病治療薬の使用状況で統計学的に調整

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図3.HbA1cレベル別にみた、血圧と重症糖尿病網膜症有病率との関連

※年齢、性別、脂質異常症、腎機能、喫煙、降圧薬の使用、脂質低下薬の使用、糖尿病治療薬の使用状況で統計学的に調整

 

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まとめ

 本研究は、血糖コントロールが良好な糖尿病患者であっても、血圧が高いと糖尿病網膜症のリスクが高まることを示しました。血糖管理だけでなく、血圧を適切にコントロールすることが、糖尿病網膜症の予防、特に早期段階での発症抑制に重要であることが明らかになりました。この研究は一時点のデータを用いた調査であるため、「血圧が高いから網膜症になったのか」「網膜症が進んだ人が血圧の調節が悪くなったのか」を完全には区別できません。糖尿病にかかってからの年数や、使っている降圧薬の種類などの詳しい情報が得られていない点も限界です。また、重症の網膜症の人が比較的少なかったため、その解析の精度は十分でない可能性があります。

 

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