現在までの成果
心理社会的因子と幸福感・生きがいとの関連について
心理社会的因子と幸福感・生きがいとの関連について
―次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)からの成果報告―
私たちは、様々な生活習慣や社会的要因と、心および体の健康との関係を明らかにし、日本人の健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。2011年から2016年にかけて全国7地域で40~74歳の住民を対象にベースライン調査を行い、アンケートにご回答いただき、かつ、国民健康保険加入者で診療報酬明細情報(以下、レセプト情報)のある約46,000人を5年間追跡したデータにもとづいて、社会的支援や社会的信頼、親族や友人との交流、グループ活動への参加といった心理社会的因子と、その後の幸福感および生きがいとの関連を調べました。また同時に、精神疾患・がん・循環器疾患という三つの主要な疾患群が、その関連にどの程度説明しているかを検討しました(SSM - Mental Health.2025年12月公開)。
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図1:心理社会的要因と幸福感・生きがいとの関連を媒介すると考えられるメカニズム
幸福感や生きがいは、個人にとって充実した人生の重要な要素であるだけでなく、社会の健全な発展にとっても欠かせない指標と考えられています。欧米の研究では、社会的信頼や人とのつながりが少ない人ほど幸福感が低く、また、精神疾患や身体疾患を発症しやすいことが報告されてきました。しかし、アジアでの大規模な前向き研究は限られており、その因果関係も十分に理解されていませんでした。そこで本研究では、ベースライン時の心理社会的因子と5年後の幸福感の関連を解析し、三つの疾患群を介した影響も含めて検討しました。
本研究では、心理社会的因子を、社会的サポート(注1)、社会的信頼(注2)、社会的ネットワーク(婚姻状況にある、親族との交流がある、友人との交流がある、グループ活動へ参加する)で定義しました。また、幸福感は、「ご自分がどれくらい幸せだと感じていますか」という質問に対して、「幸せではない」を選んだ方を幸福感が低下している方としました。生きがいは、「あなたは、生きがいがあると感じていますか?」という質問に、「まったくない」と答えた方を生きがいが低下している方としました。
注1.社会的サポートの定義について
今回の研究では、ベースライン調査時に行ったアンケートで、社会的サポートの強さを、①必要な時に話を聞いてくれる人、②困ったときにアドバイスをくれる人、③心配したり、愛情をかけてくれる人、④家事をしたり手伝ってくれる人、⑤直面する問題について相談できる人、⑥必要なときにいつでも連絡が取れる、親しく信頼できる人、がいるかどうかの6つの質問に対する5段階の回答(0:ほとんどいない、1:たまにいる、2:ときどきいる、3:よくいる、4:いつでもいる)から合計点数を算出しました。合計点数をもとに、「少ない」「中程度」「多い」の3つのグループに人数を均等に分類し、「多い」を基準とした時の他のグループの幸福感・生きがい低下がみられる程度を算出しました。
注2.社会的信頼の定義について
同様に、社会的信頼に関しては、①一般的に、人は信用できると思いますか?②多くの人は隙さえあれば、他の人を利用しようとするものだと思いますか?③多くの場合、人は他の人の役に立とうとすると思いますか? の3つの質問に対する4段階の回答(0:全く思わない、1:あまり思わない、2:思う、3:非常によく思う)から合計点数を算出しました。合計点数をもとに、「低い」「中程度」「高い」の3つのグループに人数を均等に分類し、「高い」を基準とした時の他のグループの幸福感・生きがい低下がみられる程度を算出しました。
解析では、年齢、性別、BMI、喫煙、飲酒、就業状況、運動習慣、食事(野菜、果物、魚、甘味飲料、コーヒーの摂取量)、居住形態など多数の交絡因子を統計学的に調整しました。また、欠測値についても統計学的に補完しました。さらに、心身の状態が良くないことにより幸福感の低下・生きがいの低下が引き起こされている可能性(逆因果の影響)を最小限にするため、ベースライン調査直後にすでに精神疾患・がん・循環器疾患を持っていた人や、幸福感・生きがいが低下していた人は除外して解析を行いました。最終的に、幸福感については46,480人、生きがいについては46,482人が解析対象となりました。
その結果、社会への信用が低いこと、親族との交流がないこと、グループ活動に参加していないことはいずれも、5年後の幸福感や生きがいが低下するリスクと統計学的有意に関連していました。例えば、社会的信頼が低い人は、そうでない人に比べて幸福感が低下するリスクがおよそ2.5倍に上昇していました(調整後リスク比2.49)。親族との交流がない人では約1.5倍(1.48)、グループ活動に参加していない人でも約1.3倍(1.32)のリスク上昇が見られました。これらの関連は生きがいの低下においても同様に観察されました。
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図2.心理社会的因子と5年後の幸福感の低下
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図3.心理社会的因子と5年後の生きがいの低下
さらに、媒介分析により、このような関連の一部は三つの疾患群を経由していることが示されました。親族との交流がない場合、幸福感低下リスクの約26%、生きがい低下リスクの約27%が、三つの疾患群があることによって説明されました。同様に、三つの疾患群があることは、グループ活動に参加がない場合の幸福感低下リスクの約14%、生きがい低下リスクの約31%が説明され、社会への信用が低い場合、幸福感低下リスクの約9%、生きがい低下リスクの約18%が説明されました。つまり、心理社会的因子の問題は直接的にも間接的にも、人々の幸福感や生きがいに影響を及ぼしていると考えられます。年齢や性別による解析において、女性の方が、親族との交流がないことによるリスク増加が大きい可能性が示されました。
この研究の強みは、心理社会的因子、三つの疾患群、幸福感・生きがいを異なる時点で把握し、逆因果の影響に注意しながら関連を検証できた点にあります。また、それぞれの要因の相互作用を考慮して分析(専門用語では因果媒介分析と言います)を行った点も新しい点です。一方で、アンケートの自己申告を用いていることによる測定の誤差が生じること、調整しきれなかった要因が存在すること(交絡要因)などが研究の限界として挙げられます。また、本研究では、中高年の国民健康保険加入者を対象としたため、若年層や他の集団への一般化には注意が必要です。
本研究は、心理社会的因子は病気の発症に影響を与え、ひいては個人にとっても社会全体にとっても重要な幸福感に影響を与え得ることを示しました。
