現在までの成果
仕事と家庭間での葛藤とうつ症状の関連について
仕事と家庭間での葛藤とうつ症状の関連について
―次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がん・循環器疾患などの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の方々のうち、40-64歳の働く男女56,636人のアンケート結果に基づいて、仕事と家庭間での葛藤(ワーク・ファミリー・コンフリクト)とうつ症状との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(PCN Rep. 2025年12月公開)
うつは生活の質の低下、社会生活への支障に加え、仕事の効率低下や休職にもつながる重要な健康課題です。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)への関心が高まる中、仕事と家庭間の葛藤が、うつと関連していることが示されています。仕事と家庭間の葛藤とは、仕事の事情(役割)により家庭での役割を果たす際に生じる「仕事から家庭への葛藤」、および、家庭の事情(役割)が仕事上の役割を果たす際に生じる「家庭から仕事への葛藤」の双方が含まれます。これまでの研究では特定の職種に限られることが多く、一般集団での検討は十分ではありませんでした。本研究では、地域住民を対象とした大規模な調査により、これらの葛藤とうつ症状の関連を検討するとともに、ソーシャル・サポート(社会的なサポート(心身をサポート、安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在))や世帯収入による影響の違いについても検証しました。
研究方法の概要
研究開始時のアンケート回答者のうち、40-64歳の働く男女(男性28,480人、女性28,156人)を対象に解析を行いました。仕事と家庭間の葛藤は、「仕事から家庭への葛藤」と「家庭から仕事への葛藤」のそれぞれについて、4項目ずつ(計8項目、文末参考資料参照)の質問から「低い」「高い」の2グループに分けました。うつ症状は、CES-D尺度 (Center for Epidemiological Studies Depression Scale)を改変した11項目の質問(11-item CES-D[modified version])を用いました。各項目の回答を合計し、総得点(0~22点)を算出しました。合計点8点以上をうつ症状あり、8点未満をうつ症状なしと定義しました。調整因子としては、年齢、地域、婚姻状況、ソーシャルサポート、教育歴、職業、介護の有無、世帯収入、14歳以下の子どもとの同居の状況を設定しました。
仕事と家庭間の葛藤が高いと、男女ともにうつ症状の頻度が高い
解析の結果、男女ともに「仕事から家庭への葛藤」が高いグループでは、低いグループと比較して、うつ症状を有する可能性が有意に高いことが示されました。オッズ比は、男性で2.94、女性で3.17でした(図1)。また、「家庭から仕事への葛藤」が高いグループにおいても同様の関連が認められ、オッズ比は、男性で2.35、女性で2.99でした(図1)。これらの結果から、仕事と家庭間の葛藤は、男女ともに双方向でうつ症状と関連していました。
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図1.仕事と家庭の葛藤とうつ症状の関連
ソーシャルサポートと収入による影響の検討
次に、ソーシャルサポート別、また、収入別で検討したところ、女性では、仕事と家庭間の葛藤がある場合、ソーシャルサポートが多い人のオッズ比は3.38、少ない人のオッズ比は2.82であり、ソーシャルサポートが多い人ほど、うつ症状との関連が強く見られました(図なし)。また、男性においてもソーシャルサポートが多いほどうつ症状と関連していましたが、統計学的に有意ではありませんでした。なお、収入別での解析では男女ともに有意な関連はみられませんでした。
まとめ
今回の研究により、日本の働く世代において、仕事と家庭間の葛藤がうつ症状の重要な関連要因であることが確認されました。また、女性では、ソーシャルサポートの状況によってその影響が異なる可能性も示されました。
今回みられた影響は、“ソーシャルサポートが多いほど良い影響がある”というイメージとは異なる結果です。しかし、この研究は一時点のデータを分析した横断研究であるため、仕事と家庭間の葛藤やソーシャルサポートの多さとうつ症状との因果関係までは判断できません。例えば、うつ症状が強い人ほど周囲のサポートを多く受けている可能性も考えられます。これらの関連を明らかにするには、今後のさらなる検討が必要です。
働く人のこころの健康のために、職場環境を良くし、仕事と家庭の両立による負担を減らすといった対策が重要であると考えられます。
(参考資料)
本研究で用いた「仕事と家庭間の葛藤」の指標:
仕事から家庭への葛藤
• 仕事のため、家族と過ごす時間が減る
• 職場での問題のため、家でいらいらする
• 出張で家を空けることが多い
• 仕事で非常にエネルギーを使うため、家庭で必要なことができない
家庭から仕事への葛藤
• 家庭内の問題によって仕事に専念できる時間が減る
• 家庭内の心配や問題によって仕事から気持ちがそれる
• 家族の用事によって、仕事をよく行うために必要な睡眠時間が取れなくなる
• 家庭内での責任によって、リラックスすることや一人になるための時間が減る
各質問の点数(0点=全くない、1点=ある程度ある、2点=よくある)の合計点を用いて、解析のカテゴリーを作成。
