現在までの成果
食事バランスガイド遵守度と血清Cペプチド濃度との関連
食事バランスガイド遵守度と血清Cペプチド濃度との関連
―次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。 2型糖尿病の患者数は、2045年までに2019年の1.5倍に増加すると予測されており、この疾患の発症および進行を予防することは公衆衛生上の喫緊の課題となっています。2型糖尿病の発症に先立ち、インスリン抵抗性とインスリン分泌が増加することが知られています。インスリン分泌のマーカーの中でも、Cペプチドはインスリン産生の副産物として、インスリンと同じ数(等モル量)だけ分泌されるため、膵臓からのインスリン分泌をより正確に反映する指標となると考えられています。また、日ごとの変動が比較的小さいなどの測定上の利点に加え、血漿Cペプチドレベルは、その後の2型糖尿病の発症と関連したという報告もあります。つまり、血中のCペプチド濃度は、普段のインスリン分泌状態を反映し、2型糖尿病の発症の予測因子となるマーカーであると考えられます。 大規模前向きコホート研究(JPHC Study)では、日本人向けのバランスの取れた食事ガイドラインである「食事バランスガイド」(2005年厚生労働省・農林水産省策定・図1)の遵守が、全死因および循環器疾患による死亡率低下と関連したことを報告しました(「健康な食事」への遵守度と死亡リスクとの関連について)。我々は、バランスの取れた食事と死亡率の低下を結びつける機能の一つとして、最適なインスリン分泌の関与があるのではないかと考えました。 そこで、1年間で4季節にわたる12日間の秤量食事記録調査(WFR:比較的正確な習慣的摂取量と考えられます)を実施した結果(12d-WFR)をもとに、食事バランスガイドへの遵守度スコアを計算し、血中Cペプチド濃度との関連を調べました。その結果を論文発表しましたので紹介します(JNSV. 2026年8月公開)。

図1.食事バランスガイド
調査方法の概要
2012年11月~2013年10月にJPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市・南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市にお住まいの35~80歳までの253名(男性107名、女性146名)の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFR(12d-WFR)と、研究開始時の空腹時採血(血清Cペプチド濃度測定)にご協力いただきました(図2)。糖尿病(服薬含む)や腎臓病の既往歴のある方、空腹時採血である確証を得られない方、血清Cペプチド濃度が下限値未満である方を除いた210名(男性83名、女性127名)を解析対象としました。
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図2.研究デザイン
12d-WFR平均摂取量に基づいて、主食(ごはん、パン、麺類)、副菜(野菜、きのこ、いも、海藻類)、主菜(肉、魚、卵、大豆類)、乳類、果物、菓子・アルコール飲料由来のエネルギー、及び総エネルギー摂取量の各区分について、それぞれ推奨される摂取量を10点満点とし、推奨量より少ないまたは多い摂取量は、推奨量からの離れ度合いに応じて減点しました。ただし、摂取が望ましいとされる副菜および果物は推奨量以上の摂取で10点満点とし、推奨量より少ない摂取量のときのみ、離れ度合いに応じて減点を行いました。そして、これらの区分別のスコアの合計(70点満点)を食事バランスガイド遵守の総合スコアとしました。総合スコアおよび区分別のスコアを説明変数、血清Cペプチド濃度を目的変数とする重回帰分析を行い、スコア1点ごとの血清Cペプチド濃度の変化(回帰係数:傾きのこと)をパーセンテージ(%)で表しました。解析は性別ごとに行い、年齢、BMIを統計学的に調整し、これらが結果に与える影響をできる限り取り除きました。
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図3.食事バランスガイド遵守スコア(総合スコア)とその各区分スコア上昇に伴う血清Cペプチド濃度の傾き(%)
結果
男女のいずれも、12d-WFRに基づく食事バランスガイド遵守スコア(総合スコア)が高いほど、血清Cペプチド濃度は有意に低くなり、男性では主食および菓子・アルコール飲料区分のスコア、女性では、乳類および果物区分のスコアが高いほど、血清Cペプチド濃度が有意に低くなることが示されました(図3)。各区分の摂取量との関連を見た場合、男性の菓子・アルコール飲料が多いほど血清Cペプチド濃度が高くなった一方、女性の乳類および果物では血清Cペプチド濃度が低くなることが示されました。※果物のスコアは推奨量以上でも減点されないため、摂取量を説明変数としても関連の方向性は変わりません。
この研究からわかること
この結果は、食事バランスガイドを遵守する人は、耐糖能障害によるインスリン分泌の増加を予防する可能性を示唆しています。ひいては、食事バランスガイドへの高遵守と全死因および循環器疾患による死亡率減少との関連は、最適なインスリン分泌の維持によって説明できるという仮説を支持すると考えられます。 区分別に見ると、女性において、乳類スコアが高いほど血清Cペプチド濃度が低いという本研究の結果は、カルシウムが細胞内インスリンシグナル伝達に関与していることやカルシウムの欠乏がインスリン抵抗性につながるという先行研究および日本人女性における乳類摂取が多いほど2型糖尿病発症が低いことを示した先行研究(JPHC研究)と一致しています。また、高フルクトース摂取により血漿Cペプチド濃度が上昇するという先行研究がありますが、本研究では果物の摂取量が多いほど女性の血清Cペプチド濃度が低いことが示されました。果物に含まれる食物繊維やその他の有益な成分とフルクトース摂取による悪影響が、血漿Cペプチド濃度に対する影響を相殺した可能性が考えられます。加えて、ジュースではない果実からのフルクトース摂取が多いほど血清Cペプチド濃度が低いことを示した先行研究があります。これらは、果実そのものを摂取した場合、2型糖尿病の発生率が低くなるという報告とも一致します。
本研究の限界として、血液サンプルは研究開始時に採取されたため、血清Cペプチド濃度は、その後の1年間に実施された食事の影響を反映していなかった可能性が挙げられます。また、横断研究デザインであるため、健康診断などで血糖値に関する指導を受けた参加者が、バランスのよい食事を心がけていた、といった因果の逆転を起こしていた可能性があります。従って、本研究の結果は過小評価であったかもしれません。
結論として、精製穀物(ごはん)を主食とする日本人の中高年層において、食事ガイドラインに沿ったバランスの取れた食事を摂取していた者は、基礎インスリン分泌の指標である血清Cペプチド濃度が低いことを示しました。
