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社会的サポート・社会的信頼とドライアイとの関連について

-社会的サポート・社会的信頼とドライアイとの関連について-

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23年から28年までに次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の男女約9万6千人を対象に、アンケートの回答結果に基づいて、社会的サポート・社会的信頼とドライアイとの関係について専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Ocular Surface 2019年1月 ウェブ先行公開)

 

ドライアイとは、涙の乾きなどの異常により、目の表面の健康が損なわれ、眼の不快感が生じる疾患です。近年、スマートフォンの長時間利用や、コンタクトレンズ装用者の増加などによって、わが国でもドライアイ患者は増加しています。これまでの研究から、ドライアイの危険因子として精神的な要因が報告されていますが、精神的要因とつながりの深い社会的なサポート(心身をサポート、安心させてくれる周囲の家族、友人、同僚などの存在)や、社会的な信頼(他者への信用度など)との関連を調べた報告はありませんでした。 

 

研究方法の概要

研究開始時のアンケート調査において、社会的サポート・社会的信頼・ドライアイに関する質問項目に回答のあった96,227人を今回の分析の対象としました。 

 

社会的サポートの定義について

今回の研究では、研究開始時に行ったアンケートで、社会的サポートの強さを、①必要な時に話を聞いてくれる人、②困ったときにアドバイスをくれる人、③心配したり、愛情をかけてくれる人、④家事をしたり手伝ってくれる人、⑤直面する問題について相談できる人、⑥必要なときにいつでも連絡が取れる、親しく信頼できる人、がいるかどうかの6つの質問に対する5段階の回答(0:ほとんどいない、1:たまにいる、2:ときどきいる、3:よくいる、4:いつでもいる)から合計点数を算出しました。合計点数で13点以下を「少ない」、14−19点を「普通」、20−23点を「多い」、24点以上を「とても多い」の4つのグループに分類し、「少ない」を基準とした、他のグループのドライアイの有病率を比較しました。 

 

社会的信頼の定義について

同様に、社会的な信頼に関しては、①一般的に、人は信用できると思いますか?②多くの人は隙さえあれば、他の人を利用しようとするものだと思いますか?③多くの場合、人は他の人の役に立とうとすると思いますか? の3つの質問に対する4段階の回答(0:全く思わない、1:あまり思わない、2:思う、3:非常によく思う)から合計点数を算出し、4点以下を「少ない」、5点を「普通」、6点を「多い」、7−9点を「とても多い」の4つのグループに分類し、「少ない」を基準とした、他のグループのドライアイの有病率を比較しました。 

 

ドライアイの定義について

研究開始時のアンケートから、目の乾燥感ならびに異物感を「いつも」・「時々」感じると回答した方を「自覚的ドライアイ」と定義し、ドライアイと診断されたと回答した方を「診断的ドライアイ」と定義しました。

 

社会的サポート・社会的信頼が高いこととドライアイ有病率の低さが関連していた

自覚的ドライアイの有病率は、男性15.5% 、女性19.7%、診断的ドライアイは男性4.8%, 女性18.2%で、いずれも女性の方が高い有病率を示しました。
社会的サポートおよび社会的な信頼が高いグループでは、少ないグループに比べて、自覚的および診断的ドライアイのオッズ比が統計学的有意に低いことがわかりました(図1)。 

 

図1 社会的サポート・社会的信頼とドライアイ

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※年齢、性別、地域、教育歴、収入、喫煙、ディスプレイ視聴時間、うつ既往歴で統計学的に調整

 

まとめ

社会的サポートや社会的信頼が高い人では、ドライアイの有病率が低い事がわかりました。この理由として、メカニズムは十分に明らかになっていませんが、社会的なかかわり合いが強い人ほど、痛みに気付きにくい可能性が報告されており、ドライアイによる眼の痛みを感じにくかったのかもしれません。また、社会的サポートや社会的信頼が高い人では、人との交わりが多いことでパソコンなどのディスプレイ視聴時間が短く、ドライアイが発病するリスクが低下する可能性も考えられます。
今回の研究では社会的サポートや社会的信頼がドライアイと関係することが明らかになりましたが、横断研究であるため、因果関係を明らかにするには更なる検討が必要です。今後、ドライアイの発症を追跡調査した前向きコホート研究での検討が必要です。

 

 

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