現在までの成果

2019.10.21 女性における雇用形態と主観的不健康の関連について

-女性における雇用形態と主観的不健康の関連について-

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の約11万5千人のうち、60歳未満の働く女性約2万1千人のアンケート結果にもとづいて、雇用形態と主観的不健康(自分のことを不健康だと思うこと)との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します。(J Epidemiol 2019 9月 Web先行公開

 

雇用者における非正規雇用者割合の増加に伴い、近年、雇用形態が健康に与える影響について関心が高まっています。非正規雇用はさまざまな健康指標において健康に悪い影響があることが示される一方、主観的健康感においては一致した結果がみられていません。また、日本では、女性の社会進出が進み、働く女性は増えているものの、女性が果たしている家庭での役割(家事全般や育児、介護など)は、以前と変わらない状況にあると言われています。そのため、就労している女性の仕事と家庭間での葛藤は、雇用の形態と主観的健康感との関連を説明する一つの要因と考えられます。すなわち、雇用形態によって生じる仕事と家庭間での葛藤の量が異なり、そのため主観的健康感に違いがみられるのではないかと考えられます。今回の研究では、雇用形態と主観的不健康との関連がみられるかどうか、また、その関連は仕事と家庭間での葛藤によって説明されるかどうかを調べました。

 

研究開始時のアンケート回答者のうち、60歳未満の働く女性21450人を対象として、雇用形態と主観的不健康との関連の解析を行いました。雇用形態は、正規雇用、非正規雇用、自営の3つのグループに分類しました。主観的不健康は、「全体的にみて、あなたの過去1か月間の健康状態はいかがでしたか?」の質問に対し、1=最高に良い 2=やや良い 3=良い 4=あまり良くない 5=良くない、のなかで4、あるいは5と答えた方を、主観的不健康がある方としました。仕事と家庭間の葛藤は、仕事から家庭への葛藤ならびに家庭から仕事への葛藤のそれぞれについての質問(文末参照)から合計点を算出しました。

 

自分で不健康だと感じる割合は、正規雇用者と比較して、非正規雇用者で10%、自営業者で16%低いことがわかりました(図;赤棒グラフ)。これに対して、家庭と仕事の葛藤を統計学的に調整したオッズ比では、自営業者で主観的不健康が低いことは変わりませんが、非正規雇用者の主観的不健康が正規雇用者と比較して低いという関連はみられなくなりました(図;青棒グラフ)。

007_1

 

非正規雇用者・自営者は正規雇用者と比較して主観的不健康を訴える人の割合が低い

正規雇用者の主観的不健康感が高い理由の一つとして、日本の女性が直面している家庭生活とキャリアを両立させることにおける困難が考えられます。働く女性が増えているにもかかわらず、女性が果たしている家庭での役割(家事全般や育児、介護など)は以前と変わらない状況が続いています。そのため、正規雇用者としてフルタイムで働く女性は厳しい困難を抱える可能性が高いと考えられます。正規雇用者は非正規雇用者よりも多くの仕事と家庭間の葛藤を経験していることも報告されています。このような状況の中、日本の女性就労者は仕事と家庭生活のバランスをとるために、非正規雇用を自主的に選択している可能性もあります。

 

非正規雇用と主観的不健康感の関連は、仕事と家庭間の葛藤によって説明される

非正規雇用者、自営業者の主観的不健康感が正規雇用者と比較して低い理由として、仕事と家庭間の葛藤を示すスコアが最も高いグループの割合が、正規雇用者36%、非正規雇用者24.1%、自営業者28.4%と、正規雇用者で高いことから、仕事と家庭間の葛藤によるのではないかと考えられます。そこで、雇用形態と主観的不健康感の関連を仕事と家庭間の葛藤を調整した(取り除いた)解析を行いました。その結果、非正規雇用者の主観的不健康感が正規雇用者と比較して低いという関連は仕事と家庭間の葛藤を調整すると見られなくなりましたので、非正規雇用者の主観的不健康感が正規雇用者と比較して低い理由の一つとして、彼女らの仕事と家庭間の葛藤が正規雇用者と比較して低いことによって説明されるかもしれません。

 

今回の研究により、雇用形態は主観的不健康感に影響を及ぼす一つの要因と考えられ、その関連の一つの理由は仕事と家庭間での葛藤によって説明される可能性が示されました。ただし、今回の研究が横断研究であることから、主観的健康感が雇用形態に及ぼす影響についてなどは考慮できておらず、今後もさらに検討していく必要があります。

 

(参考資料)

本研究で用いた「仕事と家庭間の葛藤」の指標:

仕事から家庭への葛藤

質問1. 仕事のため、家族と過ごす時間が減る

質問2. 職場での問題のため、家でいらいらする。

質問3. 出張で家を空けることが多い。

質問4. 仕事で非常にエネルギーを使うため、家庭では注意力が必要なことができないと思う。 家庭から仕事への葛藤

質問5. 家庭内の問題によって仕事に専念できる時間が減る。

質問6. 家庭内の心配または問題によって仕事から気持ちがそれる。

質問7. 家事によって仕事をよく行うために必要な睡眠時間が取れなくなる。

質問8. 家庭内での責任によってリラックスしたり1人になるための時間が減る。

各質問の点数(0点 = 全くない1点 = ある程度ある 2点 =よくある)の合計点(0-16点)とし、3分位に分類しました。

 

一覧に戻る