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2020.04.21 糖尿病、HbA1c、血糖値と高眼圧症との関連について

-糖尿病、HbA1c、血糖値と高眼圧症との関連について-

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2017年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただき、眼科手術歴のない40歳以上の男女6,786人を対象に、眼科検診と問診票の回答結果に基づいて、糖尿病、HbA1c、血糖値と高眼圧症との関連について検討し、専門誌に論文発表しましたのでご紹介いたします。(Scientific Reports 2020年3月 ウェブ公開

欧米の複数の研究をまとめたメタアナリシスにより、糖尿病が、高眼圧症や緑内障のリスク因子である可能性がわかってきました。しかしながら、これまで日本人を対象とした大規模な疫学調査はほとんどありませんでした。眼圧とは、目の中の圧力(つまり、目のかたさ)であり、眼圧が高くなると、視覚をつかさどる神経(視神経)が傷み、最終的に物が見える範囲(視野)が狭くなってしまいます。この視野が狭まった状態が緑内障であり、高眼圧症とは、眼圧が正常より高いが、視神経や視野に異常がない状態で、緑内障の危険因子であります。緑内障は、我が国における失明原因の第一位を占めており、日本の社会において大きな問題となっております。また、高眼圧症や緑内障は、自覚症状に乏しく、一度失った視野はもとに戻らないため、リスク因子を同定することにより、早期に予防することが重要であると考えられております。そこで本研究では、地域住民を対象に、糖尿病、HbA1c、血糖値と高眼圧症との関連を調査しました。

 

研究方法の概要

茨城県筑西市で眼科検診を実施した中で、研究参加に同意のある40歳以上9,940人のうち、眼科手術歴がなく、血液検査や眼圧のデータがある6,786人を今回の分析の対象としました。

糖尿病は、問診票による自己申告あるいはHbA1c(NGSP値)6.5%以上と定義しました。さらに、血液検査で得られたHbA1c(過去1~2か月間の血糖値を反映する指標)および血糖値を解析に使用しました。本研究では、糖尿病の「有」「無」、HbA1cおよび血糖値の「高い」「低い」でそれぞれ2つのグループに分類し、糖尿病の無いグループ、HbA1cおよび血糖値の低いグループを基準とした他のグループの高眼圧症の有病率を比較しました。高眼圧症は、眼科検査で得られた眼圧などの計測データや眼疾患の既往歴をもとに、視神経に緑内障性の変化がなく、眼圧22mmHg以上と定義しました。そのほか、年齢、性別、BMI、喫煙、飲酒歴、高血圧の既往について統計学的に調整し、グループ間によるこれらの要因の違いが結果に影響しないように検討しました。また、糖尿病患者では、一般に角膜(眼球の最も外側にある透明な膜)が厚くなっており、眼圧が高く計測される傾向が指摘されているため、角膜の厚さを統計学的な調整に加えた検討も行いました。

 

糖尿病の有病、高HbA1c値、高血糖値と、高眼圧症の有病率が関連していた

6,786人の研究対象者のうち、734人(10.8%)が糖尿病を有していました。糖尿病「あり」のグループは、糖尿病が「ない」グループに比べて、統計学的有意に眼圧が高く、平均眼圧は、それぞれ、14.4mmHg、と、13.9mmHgでした。

また、糖尿病「あり」のグループは、糖尿病が「ない」グループと比べて、高眼圧症の有病率が統計学的に有意に高いことが分かりました(図1)。同様に、HbA1cおよび血糖値が高いグループは、それぞれ低いグループと比べて、高眼圧症の有病率が統計学的に有意に高いことが分かりました(図1)。さらに、角膜の厚さを統計学的に調整しても、糖尿病や高HbA1c値、高血糖値と高眼圧症の関連が認められました。

 

図1 糖尿病、HbA1c、血糖値と高眼圧症の関連  

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※年齢、性別、BMI、喫煙、飲酒歴、高血圧の既往で統計学的に調整

 

まとめ

本研究から、欧米のメタアナリシスと同様に、糖尿病やHbA1c・血糖値が高い人では、高眼圧症の有病率が高いことが、日本人でもわかりました。さらに、角膜の厚さを調整しても、糖尿病やHbA1c・血糖値が高い人と高眼圧症の関連を認めたことから、角膜の厚さに関わらず、血糖値が高いことで眼圧が上昇する可能性が示唆されました。この理由として、メカニズムは十分に明らかになっていませんが、血糖値が高いことで、眼の中を循環する水の出口がつまりやすくなってしまい、水が出口を失って眼球の中に閉じ込められ、徐々に圧力(眼圧)があがってしまう可能性が考えられます。

 

今後の研究の必要性

今回の研究では、糖尿病やHbA1c・血糖値が高いことが高眼圧症と関係することが明らかになりましたが、横断研究*であるため、因果関係を明らかにするにはさらなる検討が必要です。今後、今回の調査時より後に発症する高眼圧症や緑内障との関連を、前向きコホート研究により検証することが必要です。

*横断研究はある集団のある一時点での疾病(健康障害)の有無と要因の保有状況を同時に調査し、関連を明らかにする方法。
(引用:日本疫学会 疫学用語の基礎知識

 

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