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自身の出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病リスクとの関連について
-自身の出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病リスクとの関連について-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23-28年(2011-16年)に、次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究に同意いただいた40-74歳の方々のうち、妊娠を経験した女性約4万6千人を対象に、自身の出生体重と、妊娠期における妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(J Epidemiol 2021年4月WEB先行公開)。
これまでの研究から、出生体重が少ない場合、その子どもの成人期において、高血圧、糖尿病や心疾患などのリスクが高いことが報告されています。さらに、欧米の疫学研究において、出生体重が少なかった女性では、妊娠時に妊娠糖尿病などを発症するリスクが高いことも報告されていますが、日本人を対象とした研究は行われておらず、よくわかっていませんでした。そのため、私たちは、日本人女性を対象として、出生体重と妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病のリスクとの関連を調べました(図1)。
図1.低出生体重で生まれた女性は、自身が妊娠した時に妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病のリスクと関連があるか
※低出生体重とは、出生時の体重が2500g未満のことである
自身の出生体重と、妊娠時の妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病の有無は調査開始時のアンケートの回答から情報を得ました。そして、自己申告による自身の出生体重が3000-3999gを基準とした、その他の出生体重(1500g未満、1500-2499g、2500-2999g、4000g以上)と、妊娠高血圧症候群と、妊娠糖尿病の有無との関連を検討しました。その際、地域、出生年、教育歴、高血圧または糖尿病の家族歴、受動喫煙年数、身長、年上の兄弟の有無、初回妊娠時年齢、喫煙習慣、20歳時の体格を統計学的に調整しこれらの影響をできるだけ取り除きました。
出生体重が3000g未満の女性では、妊娠高血圧症候群のリスクが高いことと関連がみられた
その結果、出生体重が3000-3999gのグループと比較して、2500-2999g、1500-2499gおよび1500g未満のグループで、妊娠高血圧症候群のリスクが統計学的に有意に高かったという関連がみられました(図2)。出生体重が4000g以上の場合においても、同様に、妊娠高血圧症候群のリスクは高くなっていましたが、統計学的に有意な関連はみられませんでした。出生体重と妊娠糖尿病については、出生体重が3000-3999gのグループと比較して、1500-2499g のグループで妊娠糖尿病のリスクが高いという関連がみられましたが、その他のグループでは関連がみられませんでした(図3)。
図2.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の妊娠高血圧症候群との関連
図3.出生体重が3000-3999gの女性を基準とした場合の妊娠糖尿病との関連
今回の結果からみえてきたこと
本研究は、アジアの女性において、出生体重とその後の妊娠高血圧症候群および妊娠糖尿病との関連を報告した初めての研究です。
本研究の結果から、出生体重が3000g未満であった女性では、妊娠期における妊娠高血圧症候群のリスクが高かったことと関連がみられました。これまでに、欧米の先行研究では、出生体重と妊娠高血圧症候群のリスクとの関連が報告されており、本研究においても同様の関連がみられました。メカニズムは明確ではありませんが、低出生体重児は、血管の内皮機能が弱いことや、腎機能が低下しやすいことが報告されており、このことが妊娠時に妊娠高血圧症候群のリスクと関連がみられた理由の一つと考えられました。
一方で、欧米での先行研究では出生体重が多い場合に、妊娠高血圧症候群と関連があることが、報告されています。しかし、本研究では、出生体重が4000g以上(巨大児)であった女性は、妊娠高血圧症候群のリスクは高かったのですが、統計学的に有意な関連はみられませんでした。この理由には、今回の参加者には、出生体重が4000g以上と回答した女性の人数が少なかったことが考えられました。
また、これまでに出生体重が少なかった場合、成人後の糖尿病のリスクが高いことが報告されており、本研究では、成人後の糖尿病との関連と同様、出生体重が少ない(1500-2499g)グループでは、妊娠糖尿病のリスクが高いという関連がみられました。しかし、さらに出生体重が少ない(1500g未満)グループでは妊娠糖尿病との関連がみられませんでした。この理由として出生体重が1500g未満のグループの人数が少なかったことが考えられました。
本研究の限界点として、妊娠から出産までの期間が把握できていないことや出生時体重を自己申告で行っていることなどがあげられます。
今回の研究は、電子化医療情報を活用した疾患横断的コホート研究情報基盤整備事業の一環で行われました。この事業は、国内の6つの国立高度専門医療研究センターで、健常人を対象としたコホート研究を実施している機関と連携して、疾患横断的コホート研究基盤を形成し、健康寿命延伸に資するエビデンスの構築をめざして行われています。