現在までの成果
睡眠とドライアイとの関連について
-睡眠とドライアイとの関連について-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23年から28年までに次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただきアンケート回答のあった40-74歳の男女約10万6千人を対象に、その回答結果に基づいて、睡眠の時間や質とドライアイとの関係について専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Ocul Surf 2021年4月WEB先行公開)
ドライアイとは、涙の乾きなどの異常により、目の表面の健康が損なわれ、眼の不快感が生じる疾患です。近年、スマートフォンの長時間利用や、コンタクトレンズ装用者の増加などによって、わが国でもドライアイ患者は増加しています。これまで職域を中心とした疫学研究から、睡眠障害を訴える人にドライアイが多く認められることが報告されてきましたが、日本人を対象とした地域住民を対象とした大規模な疫学研究からの報告はありませんでした。また、睡眠障害に関して、睡眠の時間や質とドライアイとの関連を多角的に検討した報告はありませんでした。
研究開始時のアンケート調査において、睡眠時間・睡眠の質・ドライアイに関する質問項目に回答のあった106,282人を対象としました。
睡眠時間は、過去1か月間の日頃の睡眠時間を5時間以下、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上の6つのグループに分け、8時間のグループを基準とした他のグループのドライアイの有病率を比較しました。
睡眠の質は、(1)寝つきが悪い(2)夜間または早朝に目が覚めてしまう(中途覚醒)(3)起床時の疲れを感じる(起床時疲労感)、の3種類について、「過去1か月間の睡眠の状態についておうかがいします。(1)寝床についてから30分以内に眠れなかったことがありましたか?(2)夜間または早期に目が覚めたことがありましたか?(3)朝起きたときにひどく疲れた感じがありましたか?」の3つの質問でたずね、(1)~(3)の回答から6つのグループ(ほとんどない、週に1回未満、週に1~2回、週に3~4回、週に5~6回、ほぼ毎日)に分け、「ほとんどない」を基準としたその他のグループのドライアイの有病率を比較しました。
ドライアイについては、研究開始時のアンケートから、目の乾燥感ならびに異物感を「いつも」・「時々」感じると回答した方、または、ドライアイと診断されたと回答した方方をまとめてドライアイと定義しました。
睡眠時間が短いこと、睡眠の質が悪いこととドライアイ有病率の高さが関連していた
ドライアイの有病率は、男性17.4% 、女性30.3%で、女性の方が高い有病率を示しました。 睡眠時間が8時間より短いグループでは、睡眠時間が8時間のグループに比べて、男女ともドライアイの有病率が統計学的有意に高いことがわかりました(図1,2)。
睡眠の質では、寝つきが悪い・中途覚醒・起床時疲労感の頻度が少ないグループに比べて、多いグループでは、男女ともドライアイの有病率が統計学的有意に高いことがわかりました(図1,2)。
図1 睡眠時間・睡眠の質(寝つきの悪さ、中途覚醒、起床時疲労感)とドライアイの関連(男性)
※年齢、地域、教育歴、収入、喫煙習慣、身体活動量、糖尿病または高血圧の既往歴、ディスプレイ視聴時間で統計学的に調整
図2 睡眠時間・睡眠の質(寝つきの悪さ、中途覚醒、起床時疲労感)とドライアイの関連(女性)
※年齢、地域、教育歴、収入、喫煙習慣、身体活動量、糖尿病または高血圧の既往歴、ディスプレイ視聴時間、閉経または閉経後のホルモン剤使用で統計学的に調整
まとめ
本研究の結果から、睡眠時間が短い、あるいは、睡眠の質が悪い人ではドライアイの有病率が高い事がわかりました。この理由として、メカニズムは十分に明らかになっていませんが、睡眠障害により、涙の分泌量の低下や眼表面の炎症のリスクが上がる可能性が報告されており、ドライアイが起こりやすくなったのかもしれません。また、睡眠障害は、精神状態にも悪影響を及ぼすことが知られているため、ドライアイの主症状である“目の痛み”や“目の不快感”をより感じやすくなる可能性も考えられます。
今回の研究では睡眠時間と睡眠の質の両方がドライアイと関係することが明らかになりましたが、横断研究であるため、因果関係を明らかにするには更なる検討が必要です。今後、ドライアイの発症を追跡調査した前向きコホート研究での検討が必要です。