現在までの成果
ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療後のピロリ菌抗体価の長期的推移について
―次世代多目的コホート研究からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23年から28年までに次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、健診などの機会に血液を提供してくださった40-74歳の対象者のうち、胃がんの既往がなく、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下、ピロリ菌)の除菌治療を受けたことがあると申告した方、および除菌治療歴の申告がなく、血液検査にてピロリ菌陽性であった方を合わせた28,696人を対象に、ピロリ菌のIgG抗体価(以下、ピロリ菌抗体価)の長期的推移を調べ、専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(J Epidemiol. 2021年4月WEB先行公開)
胃がんの約90%はピロリ菌が原因であると報告されており、日本は胃がん罹患率およびピロリ菌の感染率が高い国の一つです。日本では2013年(平成25年)にヘリコバクター・ピロリ感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となったことから、除菌治療を受ける患者数は大幅に増えました。一方で、除菌治療後のピロリ菌抗体価の長期的な推移について、大規模な一般集団からの報告はなく、よくわかっていませんでした。そこで、今回私たちは研究開始時の血液とアンケート結果に基づいて、除菌治療後のピロリ菌抗体価の推移について調べました。
研究開始時の調査アンケートのなかで、「除菌療法を受けたことがありますか?」という質問に対して、1) なし、2) あり・1年未満、3) あり・1~5年以内、4)あり・ 6年以上前、の中から回答していただき、それぞれを未治療、除菌治療後1年未満、1~5年以内、6年以上の4つのグループに分けて、ピロリ菌抗体価を比較しました。また、ピロリ菌抗体価10U/mL以上を陽性者と定義し、4つのグループにおける陽性者の割合を調べました。
除菌治療後1年未満でピロリ菌抗体価が減少
未治療のグループのピロリ菌抗体価と比較すると、除菌治療後では76.8%、1~5年以内で88.2%、6年以上で91.5%と、統計学的有意に低いことが分かりました(図1)。また、ピロリ菌抗体陽性者の割合は、1年未満で41.0%、1~5年以内で16.0%、6年以上では11.0%でした(図2)。
図1.除菌治療歴グループ別のピロリ菌抗体価の推移
(<1Y:除菌治療後1年未満、1-5Y:除菌治療後1~5年以内、6Y+:除菌治療後6年以上)
25th、50th、75thは四分位、50thが中央値を示しています。
図2.除菌治療歴グループのピロリ菌抗体陽性者の割合
(1<Y:除菌治療後1年未満、1-5Y:除菌治療後1~5年以内、6Y+:除菌治療後6年以上)ピロリ菌抗体価陽性者:10U/ml 以上
今回の結果からみえてきたこと
本研究から、ピロリ菌除菌治療後1年未満にピロリ菌抗体価は70%以上減少するものの、治療後1年未満では約4割がピロリ菌陽性者であり、陰性化までにはある程度の時間がかかることが分かりました。
除菌治療から6年以上経過しても抗体価が陰性化しない理由として、ピロリ菌への再感染が考えられますが、除菌治療歴を自己申告によって評価したことや、除菌治療が成功したかを確認していないことにより、実際には除菌治療を受けていない方や、除菌治療を受けたにもかかわらず除菌が成功していない方が治療を受けたグループに含まれている可能性があります。
今回は胃がんのリスク要因であるピロリ菌抗体価の除菌治療後の長期的推移について検討しましたが、研究が限られているため、今後もさらなる研究が必要です。