現在までの成果
体格指数とドライアイとの関連について
―次世代多目的コホート研究からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成23年から28年までに次世代多目的コホート研究対象地域にお住まいで、本研究へ同意いただいた40-74歳の男女約8万5千人を対象に、アンケートの回答結果に基づいて、体格指数であるBMI (Body Mass Index)とドライアイとの関係について専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Eye & Contact Lens. 2021年8月公開)
ドライアイとは、涙の乾きなどの異常により、目の表面の健康が損なわれ、目の不快感が生じる疾患です。スマートフォンの長時間利用や、コンタクトレンズ装用者の増加などによって、わが国でもドライアイ患者は増加しています。近年、ドライアイの病態において、角膜知覚が関与していることが分かりました。肥満で生じうる末梢神経障害がドライアイの病態にどのように影響するのか関心がもたれており、各国の疫学研究からBMIとドライアイとの関連についての報告はいくつかありましたが、その結果は一致しておらず、よくわかっていません。また、地域住民を対象とした大規模な疫学研究からの報告はありませんでした。
研究開始時のアンケート調査において、身長・体重や、ドライアイに関する質問項目に回答のあった85,264人を対象としました。BMIは身長と体重を基に、体格が肥満型かやせ型なのかを表す数値で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算されます。本研究では、男女別にBMIを算出し、7つのグループ(14.0-18.9 kg/m2、19.0-20.9 kg/m2、21.0-22.9 kg/m2、23.0-24.9 kg/m2、25.0-26.9 kg/m2、27.0-29.9 kg/m2、30.0-39.9 kg/m2)に分けました。それぞれ7つのグループの、BMIが一番低いグループを基準としたその他のグループとのドライアイの有病率を比較しました。
ドライアイについては、研究開始時のアンケート調査から、目の乾燥感ならびに異物感を「いつも」・「時々」感じると回答した方、または、ドライアイと診断されたと回答した方々をドライアイと定義しました。
BMIが高いと、ドライアイの症状を感じにくい可能性がある
ドライアイの有病率は、男性16.4%、女性29.1%で、女性の方が高いことがわかりました。 男性ではBMIが最も高いグループでは、最も低いグループと比べて、ドライアイの有病率が統計学的有意に低いことがわかりました(図1)。女性ではBMIが最も低いグループからBMIが高くなるにつれて、ドライアイの有病率が連続的に下がるという結果でした(図2)。
図1 BMIとドライアイとの関連 (男性)
※年齢、地域、教育歴、収入、喫煙習慣、アルコール摂取量、ディスプレイ視聴時間で統計学的に調整
図2 BMIとドライアイとの関連 (女性)
※年齢、地域、教育歴、収入、喫煙習慣、アルコール摂取量、ディスプレイ視聴時間、閉経または閉経後のホルモン剤使用で統計学的に調整
まとめ
本研究の結果から、BMIが高いグループではドライアイの有病率が低いことがわかりました。BMIが高いグループでドライアイの有病率が低かった理由としては、肥満などが原因となって末梢神経障害が起こると、ドライアイの主症状である“目の痛み”や“目の不快感”を感じにくくなる可能性などが考えられました。また、BMIが高いグループでは、ドライアイのリスクの一つである、パソコンや携帯電話のディスプレイ視聴頻度が全くないと答えた割合が多かったことも、BMIが高いグループで相対的に有病率が低かった理由の一つとして考えられました。
今回の研究は横断研究であるため、BMIとドライアイとの因果関係を明らかにするためには、今後、ドライアイの発症を追跡調査した前向きコホート研究での検討が必要です。