現在までの成果

2021.08.24 DPCデータで判定した糖尿病有無の正確さについて

―次世代多目的コホート研究からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境とがんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかするとともに、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。疾病の有無を把握する方法として、医療データにおける病名や投薬の記録などを用いることがありますが、これらの情報から疾病の有無を判定し、それを研究に役立てるには、その正確さをまず検証する必要があります。本研究では、診療群分類別包括評価(Diagnosis Procedure Combination)という制度で作成された医療データ(以下、DPCデータ)を使って判定した、入院患者における糖尿病の有無について、医療機関の病歴などの臨床情報から得た糖尿病の判定結果を基準として、どのくらい正確に判定できるか(妥当性)について調べた結果を専門誌に報告しましたのでご紹介します。(J Epidemiol. 2021年7月Web先行公開)

本研究では、平成23年(2011年)から26年(2014年)までに次世代多目的コホート研究の横手地域にお住まいで、本研究に同意され、アンケートに回答いただき、平成23年(2011年)10月から30年(2018年)12月までに基幹病院Aに通院・入院したことがある15,334人のうち、500人をランダムに選びました。そして、そのうち医療機関のカルテから糖尿病の有無が判定でき、かつ、DPCデータのあった72人を対象に検討しました。

 

糖尿病の判定基準

まず、妥当性検証の基準として、真に糖尿病を有しているか否かをカルテの臨床情報から調べました。糖尿病の病型は1型、2型、ステロイド糖尿病を対象としました。糖尿病の専門医が医療機関のカルテから、記載内容や処方歴、検査データを確認し、以下の3つのうち1つでも満たせば、「糖尿病を有している」と判定しました。糖尿病治療歴や糖尿病薬処方の記録がなく、血液検査結果で高血糖が認められなかった場合は、「糖尿病なし」としました。

カルテの臨床情報による糖尿病判定基準
・ 糖尿病の治療歴がある
・ 糖尿病薬の処方歴がある
・ 高血糖がある(随時血糖値が200mg/dl以上、または、HbA1cが6.5%以上)

 

DPCデータを使った糖尿病の判定方法

DPCデータには、病名の記録と、薬を処方した記録があります。本研究では、以下の3パターンの判定方法について、カルテから判定した糖尿病の有無とどのくらい一致するか比較し、その精度を検証しました。

DPCデータによる糖尿病判定基準
(1)糖尿病の病名の記録がある場合
(2)糖尿病の病名または糖尿病薬処方の記録のどちらか一方がある場合 
(3)糖尿病の病名と糖尿病薬処方の記録の両方がある場合

 

特に(1)と(2)の判定方法で高い妥当性

入院患者72人のうち、23人がカルテから糖尿病と診断されました。妥当性の検証には、感度、特異度、陽性的中度、陰性的中度(それぞれ単位は%、高いほど精度が高い)を計算しました。 DPCデータを使った3つの判定方法で、感度は68.4~89.5%、特異度は94.3~100%、陽性的中度は85.0~100%、陰性的中度は89.8~96.2%でした。(1)~(3)のいずれも、これら4つの指標は高く、カルテでの判定結果と一致する割合は高い結果でした。特に(1)と(2)で、4つの指標がバランスよく高い結果を示しました。糖尿病の病型を2型糖尿病に限定しても同様の結果でした。

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感度: 糖尿病を有しているとカルテから判定された人のうち、DPCデータでも糖尿病ありと判定された人の割合
特異度: カルテで糖尿病なしと判定された人のうち、DPCデータでも糖尿病なしと判定された人の割合
陽性的中度: DPCデータで糖尿病ありと判定された人のうち、カルテでも糖尿病を有していると判定された人の割合
陰性的中度: DPCデータで糖尿病なしと判定された人のうち、カルテでも糖尿病なしと診断された人の割合

 

この研究から得られたこと

この研究結果から、DPCデータによる糖尿病有無の把握は、(1)の病名や、(2)の病名または処方薬を条件とした判定方法において、カルテから判断した糖尿病との妥当性が比較的高いことがわかりました。そのため、DPCデータを用いて、臨床研究や疫学研究などで糖尿病の有無をある程度把握できることが示唆されました。しかし、本研究は単一の医療機関から集められたDPCデータを扱った研究であるため、他の医療機関では精度が異なる可能性があります。実際、4つの医療機関を対象とした先行研究よりも、感度が高い結果でした。また、本研究の対象者の人数は十分多いとは言えません。したがって、本結果をほかの集団に適用するときには留意する必要があると考えられます。

 

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