現在までの成果
食物摂取頻度調査票(FFQ)による推定値のスクリーニング目的における妥当性:食塩とカリウム
食物摂取頻度調査票(FFQ)による推定値のスクリーニング目的における妥当性:食塩とカリウム
-食事摂取基準との比較判定-
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。食生活と健康との関連を明らかにする研究では、一人ひとりの食生活を正しく把握することが重要です。次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)では、習慣的な栄養素や食物の摂取量を把握するため、食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いた調査を実施しています。
FFQはこれまで、摂取状況の相対的な順位付けを行い、摂取量と疾病との関連を明らかにしてきました。一方で、FFQは、習慣的な食事状況を調査していることや食事記録と比べて参加者へ与える負担が少ないことから、個人の栄養摂取状況を絶対値として評価し、食事摂取基準と比較するなどを目的とした使い方が期待されています。しかしながら、FFQで算出された摂取量を絶対値とする実現性や精度を検証した研究はほとんどありませんでした。
ナトリウム(Na)摂取量が多くカリウム(K)摂取量が少ない食事は、高血圧などの生活習慣病に関係していますが、日本のみならず全世界において、WHOガイドラインによる推奨量よりもいまだに高く、食習慣の改善が求められています。加えて、近年、尿中のナトリウムとカリウムの比(Na/K比)が食習慣を示す有効な指標であることも報告されています。これらの摂取量や指標の測定では、24時間蓄尿が正確な指標だと分かっていますが、この測定法は個人の負担が大きくとても大変です。
そこで、本研究では、JPHC-NEXTのベースライン調査で使用したFFQ(172項目)によるナトリウム(Na)摂取量、カリウム(K)摂取量およびNa/K比推定値が、食事摂取基準より多いか少ないかを判定する(スクリーニング)ことが可能かを12日間の秤量食事記録調査(12d-WFR)による摂取量実測値や5回の24時間尿中排泄量(24h-URN)との比較によって精度を検討し、専門誌に報告しましたのでご紹介します(Nutrients. 2022年7月公開)。
2012年11月~2013年12月にかけてJPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市にお住まいの40~74歳までの235名(男性94名、女性141名)の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFR、24時間蓄尿、FFQにご協力いただきました(図1)。
まず、一般的に行われている、相対値としての精度の検証方法として、ナトリウム、カリウム摂取量および Na/K 比について、12d-WFRと24h-URNから算出した摂取量と FFQ から算出した推定値との相関係数をそれぞれ求めました。
また、絶対値としての精度の検証は次のように行いました。まず、各人の12d-WFRに基づく摂取量を真の値と仮定して、食事摂取基準値から逸脱しているかどうかを判定します。そのうえで、FFQによる推定摂取量の各値におけるその判定の感度・特異度(注1)を算出しました。同様に、24h-URNに基づく摂取量を真の値と仮定した場合についても基準値からの逸脱の判定を行い、FFQによる推定摂取量の各値におけるその判定についての感度・特異度も算出しました。最後に、それらの値から、ROC曲線をそれぞれ作成し、その曲線下面積(AUC)を求めました(注2・図2)。AUCはその大きさにより有用性の程度を表します。
注1. 感度・特異度とは
推定値(本研究ではFFQ)が、基準値(本研究ではWFRやURNの値を用いた値)を「逸脱」している者を正しく判定する確率を『感度』といい、基準値を「逸脱」していない者を正しく判定する確率を『特異度』と言います。
注2. ROC曲線、曲線下面積(AUC)とは
Y軸に感度、X軸に1-特異度(偽陽性率:本当は基準値を逸脱していないのに、推定値(FFQ)で誤って逸脱していると判定した確率)をとり、各推定値における感度と偽陽性率をプロットしていきます。感度100%、偽陽性率0%となる左上に近い点を得られる曲線が最も望ましく、その曲線の下の面積(AUC)の大きいほど診断に適する有用性を持つと言えます。(図2)
FFQによる推定値の相対的な順位付け及び食事摂取基準値における判定精度
その結果、FFQと12d-WFRとの相関係数は、ほとんどが中程度(0.24-0.54)であり、FFQと24h-URNとの相関係数は、低~中程度(0.26-0.38)でした(表左・相関係数)。
また、食塩相当量またはカリウムの食事摂取基準に基づく基準値におけるAUCの値は、12d-WFRを参照基準とした場合は0.7以上と中程度以上の有用性を示し、24h-URNを参照基準とした場合は、男性の食塩摂取量で0.76を示したものの、それ以外は0.60~0.66と少し劣る結果を示しました。Na/K比のAUCはどちらの参照基準でも0.7未満でした(表・AUC値)。
この研究からわかること
FFQから得られる推定値は、12日間秤量食事記録(比較的正確な習慣的な摂取量値と考えられる)、及び24時間尿中排泄量(最も正確と報告されているナトリウム摂取量)のいずれと比較しても、個人を相対的に順位付けする目的での相関係数は、これまでの研究と同様に中程度の有用性が認められました。一方、基準値で判定する目的での精度(AUC)においては、24時間尿中排泄量を参照基準とした場合、中程度の有用性を示したのは男性の食塩のみでした。一方で、秤量食事記録を参照基準とした場合、男女、食塩・カリウムのいずれにおいても中程度の有用性を示しました。
FFQを用いて推定した摂取量の基準値判定精度は、24時間尿中排泄量の精度には及ばず、誤って判定する可能性がある程度あるものの、秤量食事記録による摂取量の判定精度と同等の精度を有しており、食塩相当量とカリウムにおいては基準値の判定(スクリーニング)に用いることができる可能性が示されました。
本研究で用いた食塩相当量・カリウム摂取量の基準値は、日本の食事摂取基準から任意に選んだものであり、他の基準値を用いた場合にも同じ結果が得られるとは言えないことに留意する必要があります。