現在までの成果
秤量食事記録によるナトリウム摂取源と24時間尿中ナトリウム排泄量との関連
秤量食事記録によるナトリウム摂取源と24時間尿中ナトリウム排泄量との関連
私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。
ナトリウム(Na)は、人が必要とするミネラルの一種で、ナトリウムと塩素が結合した塩化ナトリウムが食塩と言われています。そのため、ナトリウム摂取量は食塩摂取量の目安ともなります。Naの過剰摂取は、世界的に死亡や障害調整生命年低下の主要なリスク要因となっています。世界保健機関(WHO)は1日あたりの食塩摂取量を5g未満にすることを提唱していますが、この目標を達成している国はほとんどありません。日本を含む東アジア諸国は、欧米諸国よりもNa摂取量が多いことが知られており、食習慣の改善が求められています。日本における主要なNa摂取源を明らかにすることは、国内での減塩への取り組みを加速させる、重要なエビデンスとなります。
そこで、本研究では、12日間の秤量食事記録調査(12d-WFR:比較的正確な習慣的摂取量と考えられます)をもとにNaの摂取源を明らかにするとともに、それらの摂取源となっている食品の摂取量と24時間尿中Na排泄量(24h-URN)との関連について検討しました。24時間尿中Na排泄量は、24時間の蓄尿を1年にわたって5回採取していただいたものの平均値をとっていますので、かなり正確な食塩摂取量の指標となります。Naの摂取源は、自己裁量内外別(自分でNaの含有量を調節できるかどうか)、家食・中食・外食別(家で作って食べるか、お総菜やインスタント食品などの加工品を家で食べるか、外食するか)、食品群別、料理分類別の4つの分類で解析を行い、専門誌に報告しましたのでご紹介します(British Journal of Nutrition. 2022年8月公開)。
2012年11月~2013年12月にかけてJPHC-NEXTプロトコル採用地域である秋田県横手市、長野県佐久市および南佐久郡、茨城県筑西市、新潟県村上市・魚沼市にお住まいの40~74歳までの235名(男性94名、女性141名)の方々に、4季節それぞれ3日間(計12日間)のWFRと、年間通じて5回の24時間蓄尿にご協力いただきました(図1)。
本研究ではまず、4つの定義に基づいて、食事や食品・料理ごとの分類を行い([1]自己裁量内外別、[2]家食・中食・外食別、[3]食品群別、[4]料理分類別)、4つの分類ごとに、全体のNa摂取量への寄与割合を計算し、Naの摂取源を調べました。さらに、4つの分類ごとの食品群別摂取量が、各参加者の習慣的な尿中Na排泄量に与える影響の大きさを「標準化偏回帰係数※」を用いて比較しました。
※標準化偏回帰係数とは、単位の異なる因子(ここでは各食品群や、料理など)が尿中Na排泄量に及ぼす影響の大きさを比較したいときに用いる方法です。標準化偏回帰係数は-1~1の範囲をとり、マイナスであれば尿中Na排泄量が少なくなる方向に影響を及ぼし、プラスであれば多くなる方向に影響を及ぼします。
[結果]
12日間のWFRによる集団のNa摂取源について、自己裁量内外別では、自己裁量内のNa摂取が約6割(図2左)を占めていた一方、尿中Na排泄量の多寡に大きな影響を与えていたのは自己裁量外のNa摂取でした(自己裁量外の標準化偏回帰係数=0.32、図2右)。
図2 自己裁量内外別にみたNa摂取量への寄与割合と尿中Na排泄量に対する標準化偏回帰係数
次に、家食・中食・外食別では、家食がNa摂取源の8割以上を占めており(図3左)、尿中Na排泄量に一番大きな影響を与えていたのも家食でした(家食の標準化偏回帰係数=0.30、図3右)。
図3 家食・中食・外食別にみたNa摂取量への寄与割合と尿中Na排泄量に対する標準化偏回帰係数
食品群別で見ると、集団全体のNa摂取量は、しょう油、その他の調味料、塩、だし、味噌(みそ汁に使用するもの以外)、油といった調味料による寄与割合が最も高く、次いでみそ汁、麺料理、魚介類、漬け物がNaの主要な摂取源となっていました(図4左)。この結果は、日本における先行研究やアジア諸国の研究と同様です。また、尿中Na排泄量への影響が多かったのは、漬け物、米類、魚介類、みそ汁でした(図4右)。(米類そのものにはNaは含まれていませんが、米類と一緒にNaを多く含む漬け物やみそ汁を食べることが多い為、尿中Na排泄量への影響が大きくなったと考えられます。)
図4 食品群別に見たNa摂取量への寄与割合と尿中Na排泄量に対する標準化偏回帰係数
料理別では、集団全体のNa摂取量は汁物や煮物で寄与割合が高く(図5左)、尿中Na排泄量への影響を与えていたのは、汁物(みそ汁を含む)と漬け物でした(図5右)。
図5 料理分類別にみたNa摂取量への寄与割合と尿中Na排泄量に対する標準化偏回帰係数
この研究からわかること
集団全体のNa摂取量に対する寄与は汁物(みそ汁を含む)などで大きい一方、自己裁量外のNa摂取(例:漬け物のような塩分を多く含む加工食品)は尿中Na排泄量の個人差の決定要因として強く影響していることが示されました。集団全体のNa摂取量を減らすには、家庭での自己裁量に委ねられた調味料の使用を減らすことが推奨されうることが示唆されます。特に、汁物(みそ汁を含む)は和食の代表的な伝統料理ですが、食文化に基づいた新しい減塩の方法が必要であることを示しました。
この研究では、参加者にご家庭で食材を秤量・記録いただいたものを分析しました。それらの記録と確認で「中食」や「外食」と判明したものをそれぞれに整理しましたが、確認や記録がもれている可能性は否定できません。また、調査にご協力いただいた期間、食材を量って記録するという調査方法なので調査期間中に外食を控えるという行動が生じた可能性も考えられ、「中食」や「外食」によるNa摂取量が過小評価された可能性には留意する必要があります。