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2023.03.10 高血圧および収縮期血圧、拡張期血圧と眼圧の関連について

高血圧および収縮期血圧、拡張期血圧と眼圧の関連について

 

私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2017年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただき、眼科手術歴のない40歳以上の男女6,783人を対象に、全身検査、眼科検査ならびに問診票の回答結果に基づいて、高血圧および収縮期血圧、拡張期血圧と眼圧の関連について検討し、専門誌に論文発表しましたのでご紹介いたします。(Sci Rep. 2022年10月公開

眼圧とは目のかたさであり、眼圧が高くなると、視覚をつかさどる神経(視神経)が傷むことで、視野欠損を引き起こし、日常生活への大幅な制限につながる可能性があります。眼圧が正常より高いものの、視神経や視野に異常がない状態を高眼圧症といい、緑内障の危険因子として知られています。緑内障は、我が国における中途失明原因の第一位を占めており、自覚症状に乏しく、一度失った視野はもとに戻らないため、その危険因子を明らかにし、早期に予防することが重要です。海外の複数の研究をまとめたメタアナリシスにより、高血圧が、高眼圧症や緑内障の危険因子である可能性がわかってきました。日本人の血圧の平均値は過去数十年の間に大幅に低下していますが、高血圧患者の割合は依然として高いのが現状です。しかしながら、これまで日本人を対象とした血圧と眼圧の関連についての大規模な疫学調査はほとんどなく、また収縮期血圧と拡張期血圧のそれぞれが眼圧に及ぼす影響は不明なままでした。そこで本研究では、地域住民を対象に、高血圧の既往、収縮期血圧および拡張期血圧と眼圧との関連を調べました。

 

研究方法の概要

茨城県筑西市で実施した眼科検診を受診し、研究参加に同意のある40歳以上の男女9,940人のうち、眼科手術歴がなく、血圧や眼圧のデータがある6,783人を今回の分析の対象としました。

今回の研究では、高血圧を、降圧薬の服用の申告、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上のいずれかに該当した場合とし高血圧の「有」「無」を定義、また、収縮期血圧および拡張期血圧については、それぞれ欧州心臓病学会/欧州高血圧学会高血圧管理ガイドラインに基づいた5つのグループに対象者を分類しました。高眼圧症は、眼科検査で得られた眼圧などの計測データや、研究開始時に行った問診票から得られた情報をもとに、視神経に緑内障性の変化がなく、かつ両眼の眼圧が22mmHg以上の場合としました。これらから、高血圧の無いグループ、収縮期血圧、拡張期血圧の値の「最も低いグループ」を基準とした他のグループの高眼圧症の有病率を比較しました。そのほか、年齢、性別、喫煙歴、飲酒歴、糖尿病の既往、BMI、脂質異常症、中心角膜厚について統計学的に調整し、グループ間によるこれらの要因の違いが結果に影響しないように配慮しました。

 

高血圧であること、高い収縮期血圧・拡張期血圧と、高眼圧症の有病率が関連していた

6,783人の研究対象者のうち、3,152人(46.5%)が高血圧を有していました。高血圧「あり」のグループは、高血圧が「ない」グループに比べて、統計学的に有意に眼圧が高いことが分かりました。平均眼圧は、それぞれ14.4mmHgと、13.7mmHgでした。また、高血圧「あり」のグループは、高血圧が「ない」グループと比べて、高眼圧症の有病率が統計学的に有意に高いことが分かりました(図1)。同様に、収縮期血圧および拡張期血圧の値が高いグループは、それぞれ最も低いグループと比べて、高眼圧症の有病率が統計学的に有意に高いことが分かりました(図1)。

 

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図1 高血圧、収縮期血圧および拡張期血圧と高眼圧症の関連

※年齢、性別、喫煙歴、飲酒歴、糖尿病の既往、BMI、LDL-コレステロール値、中心角膜厚で統計学的に調整

 

まとめ

本研究から、欧米のメタアナリシスと同様に、日本人においても、高血圧および収縮期血圧、拡張期血圧が高い人は、高眼圧症の有病率が高いことがわかりました。さらに、性別、降圧薬の服用状況別にこれらの関連を検討しても、概ね同様の結果が得られたことから、性や降圧薬の服用状況に関わらず、血圧が高いことで眼圧が上昇する可能性が示されました。このメカニズムは十分には明らかになっていませんが、収縮期血圧が高いと眼の中を循環する水を産生する毛様体の毛細血管の圧が上昇し、水の産生量が増加することで、徐々に圧力(眼圧)があがってしまう可能性が考えられます。今回の研究では、高血圧であること、収縮期血圧、拡張期血圧が高値であることが高眼圧症と関連することが明らかになりましたが、横断研究であるため、これらの因果関係を明らかにするためには、さらなる検討が必要です。

 

 

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