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2023.04.10 脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連について

脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連について

  私たちは、いろいろな生活習慣・生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにするとともに、目の病気の予防に役立てる研究を行っています。茨城県筑西市に在住で、2013年から2015年までに筑西眼科研究への参加に同意をいただいた40歳以上の男女5,394人を対象に、眼科検査ならびに問診票の回答結果に基づいて、脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連について調べ、専門誌に論文発表しましたのでご紹介します。(Transl Vis Sci Technol. 2023年1月公開

 

 加齢黄斑変性では、ものを見る時に重要な働きをする網膜の中心部分である黄斑という部分が、加齢とともにダメージを受けて変化し、視力の低下や、ものがゆがんで見える(変視)などの症状を生じます。加齢黄斑変性は、世界中の高齢者の失明の主な原因です。生活習慣の影響などと加齢黄斑変性との関連を明らかにすることは、加齢黄斑変性の発症とそれに伴う視覚障害を予防するために必要です。これまでに海外の複数の研究をまとめたメタアナリシスにより、n-3系多価不飽和脂肪酸や魚の摂取が、加齢黄斑変性のリスクを低減することが示唆されています。しかしながら、それ以外の脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連については、統一した見解は得られていません。そこで、本研究では、地域住民を対象に、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸などの種類別の脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連を調べました。

 

研究方法の概要

 2013年から2015年に茨城県筑西市で実施した眼科検診を受診し、研究参加に同意した男女7,090人のうち、食物摂取頻度調査票に回答し、眼科手術歴がなく、鮮明に眼底写真を撮影できた40歳以上の5,394人(男性2116人、女性3278人)を今回の分析の対象としました。
 加齢黄斑変性は、米国で行われた大規模研究であるAge Related Eye Disease Study(AREDS)で使用された診断基準の修正版に従って、眼科医によって診断されました。脂肪酸摂取量は、次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)で使用した詳細版食物摂取頻度調査票を用いて算出しました。本研究では、対象者を各脂肪酸摂取量が少ない順から人数が均等になるように4つのグループ(四分位:Q1~Q4)に分類し、各脂肪酸摂取量の「最も少ないグループ」を基準として、他のグループの加齢黄斑変性の有病率を比較しました。

 

男性では、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取量の増加とともに、加齢黄斑変性の有病率は低下した

 5,394人の研究対象者のうち、863人(16.0%)が早期加齢黄斑変性を、633人(11.7%)が中期加齢黄斑変性を、25人(0.3%)が後期加齢黄斑変性を有していました。男性において、総脂質、飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸では、摂取量が多いグループほど、加齢黄斑変性の有病率が低下する傾向を認め、総脂質の摂取量が最も少ないグループと比べて、最も多いグループのオッズ比は0.64(95%信頼区間:0.42–0.98)と低下していました(図1)。一方女性においては同様の関連は見られませんでした(図2)。

 

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図1 脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連(男性)

※年齢、BMI、喫煙歴、喫煙歴、高血圧の既往、脂質異常症の既往、糖尿病の既往、飲酒歴、総カロリー摂取量、エネルギー調整したたんぱく質、炭水化物、ビタミンC、ビタミンE、βカロテン摂取量で統計学的に調整

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図2 脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連(女性)

※年齢、BMI、喫煙歴、喫煙歴、高血圧の既往、脂質異常症の既往、糖尿病の既往、飲酒歴、総カロリー摂取量、エネルギー調整したたんぱく質、炭水化物、ビタミンC、ビタミンE、βカロテン摂取量、閉経状況、ホルモン補充療法で統計学的に調整

まとめ

 本研究から、男性において飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸の摂取量が多いほど、加齢黄斑変性の有病率が低いことが分かりました。この結果は先行研究と必ずしも一致しませんが、脂肪酸摂取量と加齢黄斑変性の関連は、遺伝的背景や食生活が異なる集団間で異なる可能性が示唆されました。
 食生活は人種や居住地域によって異なりますが、本研究対象者では、特に男性の飽和脂肪酸摂取量が欧米人と比べて非常に低値でした。飽和脂肪酸の摂取が、多い人は少ない人に比べて虚血性心疾患のリスクが高く、一方で、脳卒中のリスクは低いことがこれまでに示されています(飽和脂肪酸摂取と循環器疾患発症の関連について)。加齢黄斑変性は、脈絡膜(網膜の外側を覆う膜)の機能障害や血行動態の異常が発症の要因のひとつではないかと考えられています。脳の小血管と同様に、飽和脂肪酸の摂取量が少ないことで細動脈硬化が起こり、脈絡膜における血液の循環障害を生じる可能性があります。
 また、日本では、一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の供給源は類似しており、本研究でも一価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の摂取量の間に強い相関がみられました。そのため、一価不飽和脂肪酸においても、飽和脂肪酸と同様に、摂取量が多いほど加齢黄斑変性の有病率が低下する傾向を認めた可能性が考えられます。
 一方、複数の研究の結果をまとめたメタアナリシスにより、加齢黄斑変性のリスクを低減することが示唆されているn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取について、本研究では関連が見られませんでした。今回は魚の摂取量が多い日本人を対象としており、魚に多く含まれているn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取量が欧米人よりも多いために、関連がみられなかった可能性が考えられます。
 本研究から、加齢黄斑変性の予防のために、飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸も含めて適度な脂質の摂取が必要であることが示唆されました。本研究は横断研究であり、脂肪酸摂取が加齢黄斑変性を予防するという因果関係にまで言及できるものではありません。これらの因果関係を明らかにするためには、さらなる検討が必要です。

 

 

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