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科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

日本におけるがんの原因

疫学研究に基づく集団への影響の推定

―予防可能なリスク要因はがんの原因としてどの程度を占めるのか―

 

日本人のデータを用いて、がんの原因を推定

がんの多くは、予防可能な生活習慣や環境要因を原因とする「生活習慣病」であり、年齢とともにリスクが高まることが知られています。それぞれの臓器のがんが、どのような要因によって、どれくらい発生しているのか、欧米において国レベルの調査が行われて来ました。しかしながら、欧米と日本では、多いがんの種類や、例えば喫煙率など、各リスク要因を持っている人がどれくらいいるかという曝露保有率が違い、まったく同じように考えることはできません。そこで、今回の研究では、日本人の現状を把握するために、日本人のデータを用いてがんの原因に関する調査を行いました(Annals Of Oncology 23, 2011 in press)。

 

研究方法の概要

2005年に日本で発生した部位別のがんのPAF (population attributable fraction, 人口寄与割合)を推計しました。この研究におけるPAFとは、特定のリスク要因への曝露がもし仮に無かった(またはそれに準じる状態であった)とすると、疾病の発生(または疾病による死亡)が何パーセント減少することになったかを表わす数値です。日本人のがんの原因についてのPAFを推定するためには、日本におけるがん発生とがん死亡のデータ、各リスク要因への曝露保有率のデータ、および因果関係のあるがんの相対リスク(RR)の推定値が必要です。

この研究では、下の表に示す、がん発生との因果関係のエビデンスのあるリスク要因を取り上げました。ただし、日本ではあまり見られないものや、データのないものは除外してあります。

 

この研究に含まれるリスク要因とがん
リスク要因最小リスクの定義リスク要因に関連付けられるがん
喫煙(能動) 喫煙歴なし 口腔と咽頭、食道、胃、結腸直腸、肝臓、すい臓、喉頭、肺、子宮頸部、卵巣、膀胱、腎臓、骨髄性白血病
受動喫煙 曝露なし 肺(非喫煙者)
飲酒 アルコール摂取なし 口腔と咽頭、食道、結腸直腸、肝臓、女性の乳房
過体重と肥満 BMI < 25 結腸、すい臓、閉経後乳がん、閉経後乳がん、子宮内膜、腎臓
運動不足 平均日常運動レベル +3METs/日 結腸、乳房、子宮内膜
野菜不足 最低摂取グループより高い 食道、胃
果物不足 最低摂取グループより高い 食道、胃、肺
塩分摂取 摂取量 6g/日以下
感染 感染なし  
ピロリ菌   胃(非噴門部)、胃MALTリンパ腫
C型肝炎ウイルス(HCV)   肝臓
B型肝炎ウイルス(HBV)   肝臓
ヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)   口腔、中咽頭、肛門、陰茎、外陰部、膣、子宮頸部
I型ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-I)   成人T細胞リンパ腫/白血病(ATL)
エプスタイン=バー・ウイルス(EBV)   鼻咽頭、バーキット・リンパ腫、ホジキン・リンパ腫
外因性ホルモン使用 使用無し 女性の乳房
ホルモン代替治療(HRT)    
経口避妊薬(OC)    

 

各リスク要因への曝露保有率データは、日本での代表的調査を優先しながら、それぞれ異なる調査結果から引用しました。相対リスク推計値は先行する疫学研究のうち、メタ分析やプール研究などなるべく包括的なものを引用しました。日本人を対象とする研究がない場合は、他のアジア人を対象とした研究などにより代替しました。

 

喫煙と感染性因子が日本では最大のがんリスク要因

以下のグラフは、各リスク要因について推計されたがん発生とがん死のPAF(%)を示すものです。

がん発生の要因別PAF

 

 

日本では男性のがんのおよそ55%(がん発生については53%、がん死については57%)は予防可能なリスク要因によるものでした。一方、女性では予防可能な要因はがんの30%近く(がん発生とがん死でそれぞれ28%と30%)を占めました。男女総合で見ると、まず喫煙と感染性因子がそれぞれ20%前後を占め、日本ではずば抜けて大きいリスク要因であり、その次に飲酒が続きました。

第1位のリスクは男性では喫煙がですが、女性では感染性因子になります。これは主として男性の喫煙というリスクの保有率が女性よりも高いためです。男性の喫煙率は近年低下傾向にあるため、喫煙によるがんは今後減少していくことが予想されます。

肝炎ウイルス感染などの感染性因子のPAFは、欧米では5%前後と推計されていますが、日本では際立って高くなっています。内訳のうち、特に大きな位置を占めるのはC型肝炎ウイルスとピロリ菌ですが、これら因子の保有率は世代が下るに従って低下していますので、感染性因子の影響も今後低下することが予想されます。

また、食事要因の影響が欧米の推定よりもはるかに小さいことが示されました。これについては、日本人の食事がもともと健康的であることのほかに、この研究では塩分、果物不足、野菜不足に限って推計していることが挙げられます。日本人の食習慣を調査で正確に把握することは難しく、誤分類などによって、本来のリスクが過小評価される可能性があります。食事要因を明らかにしている疫学研究の数も限られます。

過体重や肥満の影響が小さいのは、日本人の極端な肥満(BMI≧30)の割合が男女とも3%前後と少ないためです。日本とアジアの集団での多くの研究が、むしろ低BMIとがんリスクの関連を報告していることを考えると、低BMIのPAFについてはさらなる調査が必要となるでしょう。

 

この研究について

この研究に用いたがん発生とがん死の相対リスクは、主として日本人を対象としたプール分析や大規模コホート研究から導かれたものであり、他の集団に対する研究をもとに日本人に当てはめた相対リスクを用いるのと比較して、より適切でより現実に即した推計が可能となりました。日本人集団に関するデータを用いることが出来た意義は大きいものです。

この研究の限界としては次の点が挙げられます: 1)職業的リスク、大気汚染、紫外線や放射線曝露などの要因については、日本における信頼性の高いデータが無いことから含まれていません。欧米における研究によると、男性の職業的曝露のPAFは5%前後と想定され、決して無視できる水準ではありません。他方、他のリスク要因はあまり大きな寄与は無いかもしれません。 2) ヒト・パピローマ・ウイルスやエプスタイン=バー・ウイルスなど、いくつかの感染性因子については、日本における保有率と相対リスクのデータがないことから、先行する海外の研究より得られたPAFを用いました。

 

ここに示した相対リスクと保有率については、日本人について現在入手可能な最も信頼できる推計値を用いました。それでも、今回の研究のPAFの多くは、プール分析やメタ分析ではなく、単一の研究から導き出された相対リスクにもとづいています。そのために、今後研究が進み、より適切なエビデンスが入手可能になったときには改訂が必要です。

また、日本人のがんの半分以上は原因がわからないままです。この問題の解決には、がんの原因について的をしぼったさらなる研究が必要です。

今回の研究により、生活習慣や環境の改善により、日本人のがんを減らすことが可能であるということが、改めて裏づけられました。

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