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科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

肥満指数(BMI)と大腸がんリスク

日本のコホート研究のプール解析

日本人集団における肥満指数(BMI)と大腸がん

 

 過体重・肥満はがんを含むさまざまな疾病を引き起こすリスク要因として知られています。欧米に比べるとまだまだ少ないとはいえ、日本でも過体重・肥満の状態にある人が増えています。

 肥満は多くの疫学研究において大腸がんのリスク要因として特定されています。主として欧米におけるメタ分析では肥満指数(BMI)と大腸がん、特に結腸がんとの間に緩やかながら有意な関係が示されていますが、アジア人の集団を対象とした大規模な研究は少ないのが現状でした。

 そこで、今回、日本の8つの集団ベース前向きコホート研究(対象者合計30万人以上)を併せたプール解析により、BMIと大腸がんの関連を部位別に推定し、その研究成果を専門誌において発表しました(Annals of Oncology 2012年23号479-90ページ)。

 

プール分析に用いられた8つのコホート研究

コホート 集団 開始時調査の年 開始時年齢層 追跡最終年 平均追跡年数 対象者数 がん発生件数
男性 女性 男性 女性
JPHC-I 5つの保健所の管轄地区の住民 1990 40–59 2006 16.1 20,191 21,686 546 320
JPHC-II 6つの保健所の管轄地区の住民 1993–1994 40–69 2006 12.8 28,928 32,015 619 370
JACC 45地域の住民 1988–1990 40–79 2001 10.3 24,513 35,483 487 345
MIYAGI-I 宮城県内の14の自治体の住民 1990 40–64 2003 12.7 21,109 22,685 420 270
MIYAGI-II 宮城県内の3の自治体の住民 1984 40+ 1992 7.6 13,010 15,944 164 122
AICHI 愛知県の2自治体の住民 1985 40–103 2000 11.5 15,253 16,895 196 146
TAKAYAMA 岐阜県高山市の住民 1992 35+ 1999 6.9 13,392 15,537 149 113
OHSAKI 宮城県大崎保健所管内の国民健康保険加入者 1994 40–79 2003 7.7 21,531 23,212 474 238
合計           157,927 183,457 3,055 1,924

 注) 追跡最終年、平均追跡年数、対象者数、がん発生件数は、このプール解析で採用された部分のみを対象とするものです。

 

肥満による大腸がんリスクの上昇が確認された

 下の2つの図は、今回の分析で得られたBMIのグループ別の大腸がんの相対リスク(ハザード比)を男女別にグラフにしたものです。グラフには大腸がん全体のリスクと、結腸と直腸および結腸をさらに区分した近位結腸と遠位結腸の各部位別のがんリスクの分析結果が描かれています。BMIが「23以上25未満」のカテゴリーが基準(ハザード比=1)になっています。大腸がんリスクに影響を与えうるBMI以外の要因(年齢、地域、喫煙、飲酒)について、それらの偏りが結果に影響を与えないように、ハザード比には統計的補正が施されています。グラフの中で統計的に有意なリスク上昇または下降が見られるポイントにのみマーク(◆、■、▲、☓、*)が付されています。

 

 

 

 

 

 男性の大腸がんについてみると、BMI「27以上30未満」および「30以上」のカテゴリーにおいて有意なリスク上昇を認めました。また、BMIが高くなるにつれてがんリスクも高くなるような関連がみられ、BMIが1kg/m2高くなるごとにリスクが1.03(95%信頼区間1.02-1.04)上昇しました。部位別の分析からも、直腸を除いて、同様に高BMIとがんリスク上昇の関係を示す結果を得ることができました。興味深いことに、より近位な(より小腸に近い)部位ほど、BMIの低いグループからがんリスク上昇がみられました。

 女性では、有意なリスクの上昇や下降が見られる個別のポイントは男性における場合と比べて少ないのですが、BMIが高くなるにつれてがんリスクも高くなるような関連がみられ、BMIが1kg/m2高くなるごとにリスクが1.02(95%信頼区間1.00-1.03)上昇しました。部位別にみても結腸、近位結腸において同様の関連がみられ、遠位結腸においてもやや弱いながら同様の傾向が認められました。直腸に関しては関連がみられませんでした。

 今回の分析結果に基づき、「BMI25以上」という要因の大腸がん発生におけるPAF(Population Attributable Fraction、人口寄与割合)、すなわち仮に集団内で「BMI25以上」だった人がすべて標準的な水準のBMIであったと仮定した場合の大腸がんの減少割合を算出すると、男性については3.62%、女性については2.62%でした。

 以上のように、日本人集団を対象としたこの研究では、BMIと大腸がんリスクの関係や各部位のがんリスクの特性の差異といった点で、欧米などの先行する研究とおおむね一致する結果が得られました。BMIと大腸がんの関係についての研究は日本では限られており、それらの結果はまちまちですが、その原因のひとつにそれぞれの研究で部位別の分析をするには対象者数が少ないことがあげられます。この研究ではデータを統合してプール分析を行い、対象者を増やして安定した推計結果を得ることができました。

 

この研究について

 この研究の優れた点としては、日本で進行中の大規模前向きコホート研究の大半が参加していただいたことにより、合計対象者数が30万人以上と大変大きいことが挙げられます。ほとんどの研究で妥当性の証明されたアンケートを用いてBMIの計測を行っており、誤差の影響はあるとしても小さいと考えられます。各コホートは世代的にも重なっており、BMIのカテゴリー分けやその他要因は共通です。 この研究は前向き研究であり、BMIは大腸がん発生の前に計測されていて、対象者の選択や思い出しなどによるバイアスの可能性が排除されています。死亡ではなくがん発生をエンド・ポイントとして分析を行っていることから、がん予防へのBMIの影響を直接推定することができました。

 一方で、この研究の限界としては次のような点が挙げられています: 1) 男性の大腸がんについて研究間で不均一性が見られ、統計学的な調整を行っていますが、影響は否定できません。 2) BMIやその他大腸がん発生に影響しうる要因についてはベースライン時に測定しただけで、その後の変化は追跡していません。 3) BMI以外の大腸がん発生に影響しうる要因について考慮してありますが、完全ではない可能性があります。 4) コホート内のBMIの分布に基づいてPAFの推計を行っています。潜在的な選択バイアスを考えるとPAFが過大または過小に推計されている可能性があり、その解釈には注意が必要です。

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