トップ >科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究 >現在までの成果 >喫煙と全がんリスク

科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

喫煙と全がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

生活習慣の改善によって、がんになる確率、すなわちがんリスクがある程度抑えられることは、よく知られています。その具体的な方法を示す指針も、世界保健機構(WHO)をはじめ、さまざまな機関から発表され、日本でも紹介されています。

しかし、指針の根拠となった研究結果は、疫学研究の先行する欧米から発表されたものが大半を占めています。そのため、日本人という、欧米人とは人種的、文化的、その他様々な背景が異なる集団を対象とする場合には、必ずしもそのまま当てはまるとは限りません。日本人に適したがん予防法を開発するためには、できるだけ偏りのない日本人集団を観察し、どのような生活習慣の人がどのがんのハイリスクグループなのか、現段階でどれくらい確実にそう言えるのか、また具体的にどの程度リスクが上がるのかを検証してみることが必要です。

「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。(研究班ホームページ

関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「おそらく確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「おそらく確実」と判定された場合には、 メタアナリシス の手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。

その中から、まず、喫煙と全がんについての評価の結果を専門誌に報告しました(Jpn J Clin Oncol. 2005年7月35巻404-411ページ)。

日本では、たばこを吸う人のがんリスクは、吸わない人の1.5倍

皆さんよくご存知のように、たばこを吸う人では、吸わない人よりも、がんリスクが高くなります。今回、改めて、2004年までに報告された日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価し、たばこを吸う日本人の全がん 相対リスク を算出しました。

このテーマについて報告された疫学研究には、8つの コホート研究 があり、 症例対照研究 はありませんでした。その解析結果から、研究目的に適った男性4、女性3、男女1件が最終的な評価の対象となりました(表)。一つを除いた6つの研究で「弱い」あるいは「中程度」の関連を認めました。また、これらのデータをもとに、改めて解析を実施しました( メタアナリシス )。すると、たばこを吸っている人のたばこを吸ったことがない人に対するがん全般の 相対リスク は、男性で1.64(1.55-1.73)、女性で1.34(1.24-1.43)、男女合わせると1.53(1.41-1.65)になりました。

喫煙者の非喫煙者に対する相対リスク サマリーテーブル

結論

たばこの煙には数多くの発がん物質が含まれています。細胞に対する毒性のメカニズムが解明されているものもあり、動物実験でも発がん性が確認されています。さらに、複数の コホート研究 で、たばこによってヒトのがんリスクが上がるという一致した結果が得られています。よって、喫煙によるがんリスク上昇の科学的根拠は確実であるといえます。

また、 メタアナリシス による日本人喫煙者の 相対リスク は1.5倍程度であると、その影響の大きさを定量的に評価しました。

「日本人喫煙者の相対リスクは1.5倍」の意味

日本人男性で、たばこを吸ったことがない人:吸っていたがやめた人:吸っている人の割合は、大ざっぱに1:1:2くらいです。

1年間に発生する日本人男性のがん

 さて、1年間に何らかのがんと診断される男性は30万人程度です。この30万人のうち、図の赤い部分に相当する約6-9万人は、たばこを吸っていなければ予防できたものと考えられます。たばこを止めた場合には、その後の年数に応じてゆっくりとがんリスクが下がることがわかっています。このように、たとえ 相対リスク が2倍に達していなくても、ハイリスク集団が多いために、健康被害を受けている人数は非常に多くなるのです。

また、喫煙の影響を受けやすいがんと、そうでもないがんがあります。喫煙と主要な臓器ごとのがんリスクについては、今後研究班の評価の結果を報告することになっていますが、日本のがん死因の第一位を占める肺がんについては、信頼性の高い メタアナリシス の結果、男女とも 相対リスク は4−5倍です。特に因果関係の強い喉頭がんでは少なくとも10倍以上と考えられます。

さらに、喫煙の健康影響はがんにとどまりません。脳卒中や心臓病などとの関連も指摘され、寿命前の死亡リスクが高くなります。また、喫煙者本人だけでなく、その周囲のたばこを吸わない家族や同僚の健康にも影響を与えます。本人のがんリスク上昇は、その一部に過ぎないのです。

個人の趣向の問題でがんの 相対リスク 1.5倍なら、気にしなくて良いという考え方も、場合によってはあるかもしれません。しかし、たばこに限っては、日本人の喫煙率をできるだけ低く抑える努力が日本人の健康に直結するといっても過言ではありません。

上に戻る