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科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

喫煙と肺がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。(研究班ホームページ

関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「おそらく確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「おそらく確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。

その研究の一環として、このたび、喫煙と肺がんについての評価の結果を専門誌に報告しました。(Jpn J Clin Oncol. 2006年5月36巻309-324ページ)。

喫煙によって肺がんのリスクが確実に高くなる

喫煙習慣は、肺がんの主な原因であることがわかっています。欧米では、たばこを吸う男性の肺がんリスクは、吸わない男性に比べ、少なくとも10倍以上と非常に高くなることが報告されています。日本では、やはり喫煙で肺がんリスクはかなり高くなるものの、欧米ほど高くはならないことが知られています。

それでは、日本人の肺がんリスクは、喫煙によってどれくらい高くなるのでしょうか。今回、2005年までに報告された喫煙習慣と肺がんリスクについて、日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。

今回の研究目的に適った8つのコホート研究(表1)と、14の症例対照研究(表2)が最終的な評価の対象となりました。そのほとんどで、喫煙と肺がんに「強い」関連が認められていました。また、ほとんどの研究で、1日当たりの喫煙本数、喫煙年数、喫煙指数が増すほど肺がんリスクが高くなり、禁煙してからの年数が増すほどリスクが低くなる傾向がみられました。さらに、男性では女性よりも相対リスクが高くなっていました。この男女差は、男性では女性よりも喫煙本数や年数が多いために生じたと考えられます。

これらの研究をもとに、男女別のデータを使って、改めて解析を実施しました(メタアナリシス)。すると、たばこを吸っている人のたばこを吸ったことがない人に対する肺がんの相対リスクは、男性で4.4倍、女性で2.8倍になりました。肺がんのタイプ(組織型)別では、扁平上皮がんの相対リスクが男性11.7倍、女性11.3倍で、腺がんについては男性2.3倍、女性1.4倍でした。

表1 喫煙と肺がんの関係コホート研究のサマリーテーブル

<文献>

  • Kono S et al. Jpn J Cancer Res 1987; 78:1323-8.
  • Akiba S et al. Environ Health Perspect 1990; 87:19-26.
  • Tomita M et al. Nippon Koshu Eisei Zassi 1991; 38:492-7.
  • Murata M et al. Cancer Detect Prev 1996; 20:557-65.
  • Sobue T et al. Int J Cancer 2002; 99:245-51.
  • Pierce DA et al. Radiat Res 2003; 159:511-20.
  • Ando M et al. Int J Cancer 2003; 105:249-54.
  • Marugame T et al. Cancre Sci 2005; 96:120-6.

喫煙と肺がんの関係 症例対象研究のサマリーテーブル

<文献>

  • Nakamura M et al. Haigan 1986; 26:137-48
  • Shimizu H et al. Jpn J Clin Oncol 1986; 16:117-21.
  • Tsugane S et al. Jpn J Clin Oncol 1987; 17:309-17.
  • Sakai R et al. Jpn J Cancer Res 1989; 80:513-20.
  • Minowa M et al. Environ Health Perspect 1991; 94 :39-42.
  • Yamaguchi N et al. Jpn J Cancer Res 1992; 83:134-40.
  • Gao CM et al. Jpn J Cancer Res 1993; 84:594-600.
  • Shimizu H et al. Jpn J Cancer Res 1994; 85:1196-9.
  • Sobue T et al. Jpn J Cancer Res 1994; 85:464-73.
  • Wakai K et al. J Epidemiol 1997; 7:99-105.
  • Stellman SD et al. Cancer Epidemiol Biomark Prev 2001; 10:1193-9.
  • Ito H et al. J Epidemiol 2002; 12:258-65.
  • Minami Y et al. Cancer Sci 2003; 94:540-7.
  • Marugame T et al. Br J Cancer 2004; 90:646-51.

欧米人との相対リスクの差

喫煙者の非喫煙者に対する肺がんの相対リスクは、日本人では4倍程度なのに対し、欧米人では10倍以上です。日本人で相対リスクがそれほど高くならないのは、欧米人よりも喫煙者の肺がんリスクがそれほど高くないこと、非喫煙者の肺がんリスクが高いことの両方の理由からです。肺がんのタイプ別には、日本人男性の肺がんの約4割を占める扁平上皮がんは喫煙との関連が強いこと、日本で発生頻度が高く、全体の約6割を占める腺がんは喫煙以外の原因との関連が強いことが知られています。

喫煙者の肺がんリスクが欧米に比べて高くないことは、日本では吸い始めた年齢が遅いこと、1日の本数が少ないことや、戦後にたばこが入手し難い期間があったことなどで説明されています。その他にも、たばこやフィルターの質、相関する生活習慣、たばこの発がん物質の代謝を決める遺伝子型の分布が異なることなども、考える必要があるでしょう。

結論

たばこの煙には数多くの発がん物質が含まれ、動物実験から、肺の気道に対する毒性や、肺がんリスク上昇も確認されています。さらに、数多くのコホート研究と症例対照研究で、たばこによってヒトの肺がんリスクが上がるという一致した結果が得られています。よって、喫煙による肺がんリスク上昇の科学的根拠は確実であるといえます。

また、メタアナリシスによる日本人喫煙者の相対リスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍程度であると、その影響の大きさを定量的に評価しました。

日本人男性の喫煙率はまだ高く、喫煙に起因する肺がんも毎年相当数発生していると考えられます。米国では、禁煙政策が功を奏し、肺がん発生率が頭打ちになり、減少に転じたと報告されています。日本でも、禁煙は、がん死亡原因の第一位となっている肺がんを減らすための最も効果的な方法です。

※肺がんの組織分類については、国立がん研究センターの解説をご覧ください:
肺がん:[がん情報サービス]

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