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科学的根拠に基づく発がん性・がん予防効果の評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究

飲酒と肺がんリスク

日本の疫学研究に基づく関連性の評価

日本の研究結果から、日本人のがん予防を考える

「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。 (研究班ホームページ

関連の強さについて、「強い」「中程度」「弱い」「なし」の4段階で個々の研究を評価し、研究班のメンバーによる総合的な判断によって、科学的根拠としての信頼性について「確実」「おそらく確実」「可能性がある」「不十分」の4段階で評価するシステムとしました。その際、動物実験や作用機序に関する評価については、既存の機関が行ったレビューを引用することにしました。さらに、関連が「確実」あるいは「おそらく確実」と判定された場合には、メタアナリシスの手法を用いた定量評価を行い、その影響の大きさについての指標を推定することにしました。

その研究の一環として、このたび、飲酒と肺がんについての評価の結果を専門誌に報告しました。(Jpn J Clin Oncol 2007年3月37巻168-174ページ)。

飲酒と肺がんリスクの関連は根拠が不十分

肺がんの主な原因は喫煙ですが、それ以外の原因についてはまだよくわかっていません。飲酒は、口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓のがんのリスク要因とされていますが、肺がんとの関連はまだよくわかっていません。

最近の喫煙の影響を調整した研究では、1日当たり日本酒にして2.9合以上飲むグループに限って肺がんリスクとの関連が見られたというメタアナリシスの結果や、あるいは1日当たりエタノール換算で30g以上摂取する男性で21%、女性で16%の肺がんリスク上昇が見られたというプール解析の結果が報告されています。ただし、これらには主に欧米の研究が用いられています。日本では、よく飲まれる酒の種類が欧米と異なり、さらに、アルコールを飲んですぐ顔が赤くなるタイプの人が約半数いるという体質の違いがあり、必ずしも欧米の結果が参考になるとは限りません。

今回、改めて、2006年までに報告された飲酒と肺がんリスクについて、日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。このテーマについて報告された疫学研究には、7のコホート研究と、2つの症例対照研究がありました。それらを検討した結果、日本では、飲酒と肺がんリスクの関連を示す科学的根拠が不十分であるという結論になりました。

表1 飲酒と肺がんの関連 コホート研究のサマリーテーブル

<文献>

  • Kono S et al. Jpn J Cancer Res 1987;78:1323-8.
  • Hirayama T. Life-style and mortality. Basel:Karger 1990;60-72.
  • Masuda et al. Med Bull Fukioka Univ 1992;19:435-43.
  • Murata M et al. Cancer Detect Prev 1996;20:557-65.
  • Takezaki T et al. Nutr Cancer 2003;45:160-7.
  • Nakaya N et al. Eur J Cancer Prev 2005;14:169-74.
  • Nishino Y et al. J Epideniol 2006;16:49-56.

喫煙の影響

コホート研究のうち、1つ(2)では女性で強い関連がみられましたが、喫煙の影響を考慮すると、飲酒のみの影響はほとんど残らなかったと報告されています。

喫煙の影響を除いても飲酒が肺がんのリスクになるかどうかという点は評価が難しいという問題がありました。お酒をたくさん飲む人はたばこをたくさん吸います。たばこは非常に強い肺がんのリスク要因ですので、見かけ上はお酒の影響でも、実際はたばこの影響なのかもしれません。今回評価の対象となった9研究のうち、喫煙の影響を考慮して結果を出しているのは、5研究(1、3、5-7)だけでした。

他の研究では男性で弱い関連がみられたかまたは関連がみられなかったという結果でした。1日当たりエタノール換算で40g以上というグループでも、統計学的に有意な関連がみられていません。

表2 飲酒と肺がんの関連 勝利対照研究のサマリーテーブル


<文献>

  • Shimizu H et al. Haigan 1983;23:127-37.
  • Huang XE et al. Asian Pac J Cancer Prev 2004;4:419-27.

メカニズム

アルコール代謝物であるアセトアルデヒドには、発がん性が認められます。また、アルコールは別の発がん物質に作用し、発がんを促進するという説もあります。n-ニトロソ化合物で肺がんを誘発した実験動物にエタノールを投与すると、肺がんリスクが高くなったという報告があります。

結論

生物学的なメカニズムを説明する研究結果があるものの、疫学研究の結果が不確定であることから、日本人においては、飲酒によって肺がんのリスクが高くなるかどうかを決める科学的根拠が不十分であるという結論になりました。

本当に関連がないかどうかを見極めるには、今後の研究で、禁酒グループを飲まないグループから取り除いたり、食事調査の結果を調整したり、あるいはお酒の種類別に関連を検討したりする結果を参考にする必要があるでしょう。

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