科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
飲酒と大腸がんリスク
日本のコホート研究のプール解析
日本人の飲酒と大腸がんリスク
「生活習慣改善によるがん予防法の開発と評価」研究班では、主要なリスク要因について、がん全般、および肺がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝がんリスクとの関連を調べた国内の疫学研究を収集し、個々の研究についての関連の強さの確認と科学的根拠としての信頼性の総合評価を行っています。 (研究班ホームページ)
2005年までに報告された大腸がんリスクと、さらに部位別に結腸がん、直腸がんのリスクについて、日本人を対象とした疫学研究結果をまとめ、評価しました。その結果、日本では、飲酒によって大腸がんリスクがおそらく確実に高くなるという結論になりました(「飲酒と大腸がん」参照)。
そこで、5つのコホートのデータを併せたプール解析による定量評価を行い、飲酒量別の影響の大きさを推定し、その結果を専門誌に報告しました 。(Am J Epidemiol. 2008年6月167巻1397-1406ページ)
男女とも、過度の飲酒で大腸・結腸・直腸がんリスク高く
各コホートの合計約20万人のデータを用いて、アルコール摂取状況によって男性は7つのグループ、女性は4つのグループに分けました。平均で6.9年から13.5年の追跡期間中に、男性1724人、女性1078人の大腸がんが確認されました。まったく飲まないグループを基準にして、他のグループの大腸がんリスクを比べました。
男性では、23-45.9g/日、46-68.9g/日、69-91.9g/日、92g以上/日のグループでまったく飲まないグループよりもそれぞれ1.4倍、2.0倍、2.2倍、3.0倍と、量が増えるほどリスクが高くなりました。1日のアルコール摂取量が15g増えるごとに、大腸がんリスクが約10%増えると推定されます。部位別には、結腸がんでも直腸がんでも同様の傾向が見られました。
女性では、23g以上/日のグループでまったく飲まないグループよりも大腸がんリスクは1.6倍、結腸がんリスクは1.7倍、直腸がんリスクは2.4倍高いという結果でした。男性と同様に、1日のアルコール摂取量が15g増えるごとに、大腸がんリスクが約10%増えると推定されます。
男性の大腸がんの4分の1が、23g/日以上のアルコール摂取のために
男性の大腸がんで、1日あたり23g以上の飲酒者で過剰に発生した部分を算出すると、全体の4分の1を占めることが分かりました。飲酒が大腸がんのリスクを高める原因であると仮定すると、男性の大腸がんの25%は予防可能であると推計されます。
今回の結果を欧米での研究報告と比べると、日本人は欧米人に比べ飲酒と大腸がんの関連がより強いことが、改めて確認されました。その違いが遺伝子多型(体質)によるものなのか、それとも生活習慣を含む環境的な要因によるものなのかを明らかにするため、さらなる研究が必要です。
この研究では、コホートごとに、居住地域、年齢、喫煙状況、肥満指数、摂取エネルギー量、赤身肉・カルシウム・食物繊維・葉酸の摂取量の差が結果に影響しないように配慮して分析が行われましたが、大腸がんリスクに関わる飲酒以外の要因の影響がまだ残っている可能性があります。また、今回の研究では、アルコール飲料の種類別には検討していません。
それぞれのアルコール飲料のアルコール23gに当たる目安量を、表に示します。大腸がん予防のためには、1日あたりの平均でこの目安量を超えないよう、適度な飲酒を心がけましょう。