科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究
日本人における身長と大腸がんリスク
日本のコホート研究のプール解析
日本人における身長と大腸がんリスク
身長が高い人はいくつかの部位のがんのリスクが高いことが知られており、大腸がんもそのひとつです。国際的な評価で、高身長によって大腸がんのリスクが高まることを支持する科学的証拠は「確実」であるとされています。本研究班で以前行った、日本の疫学研究のメタ解析でもそのことが裏付けられました(研究班ホームページ)。しかしながら、メタ解析の対象となった論文では身長の区分や調整要因の取り扱いが研究間で異なっていることや、身長と直腸がんとの関連を調べた報告が少ないことなど、結果をとりまとめる上での課題もありました。今回、私たちはJapan cohort consortiumに参加している10のコホート研究について、各コホートのデータを同じ手順で解析し、その結果を統合する「プール解析」という手法を用いて、日本人における身長と大腸がんの関連を分析しました(J Epidemiol 2023 Feb 25. doi: 10.2188/jea.JE20220289. Online ahead of print.)
10の日本のコホート研究(多目的コホート研究のコホートI群とコホートII群、JACC研究、宮城県コホート研究、三府県宮城コホート研究、大崎国保コホート研究、三府県愛知コホート研究、三府県大阪コホート研究、放影研寿命調査、高山コホート研究)において、それぞれのコホートで使用している自記式質問紙により身長・体重や生活習慣についての情報が収集されました。これらのコホートの参加者390,063人を追跡し、そのうち9,470人に大腸がんの罹患が確認されました。
男女とも高身長は大腸がん、結腸がん、遠位結腸がんのリスク上昇と関連していました。身長が最も低い群(男性:160 cm未満、女性:148 cm未満)を基準とすると身長が最も高い群(男性:170 cm以上、女性:157 cm以上)のがんリスクは、男性では、全大腸1.23倍、結腸1.22倍、遠位結腸1.27倍、女性では全大腸1.21倍、結腸1.23倍、遠位結腸1.35倍と高くなりました(図)。近位結腸や直腸のがんとも同様の関連がみられましたが、量反応関連やコホート間での結果の異質性を含め総合的に評価すると、その関連は前記の部位のがんほど明確ではありませんでした。
図.身長区分ごとの大腸がんリスクのハザード比(HR)
この研究について
日本国内のコホート研究をプール解析した結果、高身長は大腸がん及び結腸がん(特に遠位結腸がん)のリスク上昇と関連していることが示されました。今回の研究により、日本人において身長と大腸がんリスクに関する確実性の高い科学的根拠が得られました。がん予防において身長は生活習慣とは同列には扱えませんが、大腸がんのリスク評価を行う際、その規定要因のひとつとして身長を活用できるかもしれません。
本研究で分析したコホートは1990年代にデータ収集が行われており、その時の研究参加者の身長を反映しています。その後、若い世代の身長は伸びており、今回の結果が現在の人たちにどのくらい当てはまるかについて、さらなる研究で調べる必要があります。