現在までの成果

中年期における身体疾患による多疾患罹患と死亡リスクとの関連

本研究事業(NC-CCAPH)では、6つの国立高度専門医療研究センターの公衆衛生・予防医学分野の研究者が協働して、日本人の疾病予防と健康寿命延伸のための研究を行っています。現在、日本を含む多くの国で人口の高齢化が進行する中、複数の慢性疾患を同時に有する「多疾患罹患」の状態にある人々が増加しています。これまでの研究では、多疾患罹患が死亡リスクの増加と関連することが示唆されていますが、先行研究の多くは高齢者を対象としており、中年期(40~64歳)における多疾患罹患と死亡リスクの関連についてのエビデンスは限られていました。本研究では、NC-CCAPHに参加するコホート研究のうち、2つのコホート研究のデータを用いて、日本における中年期の身体疾患による多疾患罹患と全死亡リスクの関連を調べました(BMC Public Health. 2025 Jan 8;25(1):92)。

 

解析方法
この解析には、NC-CCAPHに参加する「多目的コホート研究(JPHC Study)」と「職域多施設研究(J-ECOHスタディ)」の2つのコホート研究から得られたデータを使用しました。対象者はベースライン時点で40~64歳の144,774人であり、追跡期間はJPHC Studyが最長29年間、J-ECOHスタディが最長10年間でした。本研究では、2つのコホートで収集している10種類の疾患や症状(糖尿病、高血圧、心疾患、脳卒中、高脂血症、過体重、腎疾患、肝疾患、喘息)を身体疾患とし、そのうち2つ以上を有する状態、を身体疾患による多疾患罹患、と定義しました。その多疾患罹患の有無と全死亡との関連を、コックス比例ハザードモデルを用いて2つのコホート研究それぞれで解析し、結果はメタ解析の方法で統合しました。登録された死亡件数が十分にあるJPHC Studyについては、死因別の検討も行いました。

 

結果 : 中年期に多疾患罹患の状態であると、その後の死亡リスクが高い
追跡期間中にJPHC Studyで23,611人、J-ECOHスタディで275人の死亡が記録されました。ベースライン時に身体疾患による多疾患罹患の状態にあった対象者は、そうでない対象者と比較して、全死亡リスクが有意に高いことが明らかとなりました(HR 1.61, 95%CI 1.29–2.01)(図1)。さらに、JPHC Studyの死因別解析において、身体疾患による多疾患罹患は身体疾患による死亡(注)、精神疾患・自殺による死亡、事故・外傷による死亡リスクの上昇と関連していました(図2)。

(注)全死亡のうち、精神疾患・自殺による死亡、事故・外傷による死亡を除いた死亡

 

本研究の結果は、先行研究の結果とも類似しており、中年期において多疾患罹患と死亡リスクの関連が存在することを示しました。先行研究の多くは高齢期を対象としていましたが、中年期を含む、より若い年齢層においても多疾患罹患対策に取り組む必要性を示唆する結果となりました。一方で、自己申告データの使用やコホート間の収集データの違い、未測定の交絡因子の存在、多疾患罹患の影響が時間とともに変化する可能性など、研究上の限界も存在します。今後は、より詳細な医療データを活用した研究や、多疾患罹患の要因を探求する研究を展開していく必要があります。

 

まとめ
本研究の結果、中年期における身体疾患による多疾患が死亡リスクの上昇と関連することが示されました。これらの知見は、早期に予防や治療を行うことにより多疾患罹患を管理することの重要性を強調するものです。