国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究
血中のインスリン関連マーカーと大腸腺腫との関連
―「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」の成果―
これまでの疫学研究から肥満が大腸発がんと関連している事は確実と考えられていますが、そのメカニズムはまだ明らかになっていません。我々は肥満と深く関連するインスリン抵抗性と言う病態に注目し、血中のインスリン関連マーカーと大腸の前がん病変である大腸腺腫との関連を検討し、その結果を専門誌に発表しました(International Journal of Obesity 2011年 WEB先行公開)。
がん予防・検診研究センターで行われている「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」は、2004年2月~2005年2月の期間に大腸内視鏡検査を受けた3,212名のうち、大腸腺腫があった症例群782名と大腸腺腫がなかった対照群738名を対象としています。今回の研究では、研究対象者1,520名の研究用血液を利用し、C-ペプチド(インスリン分泌の指標)・インスリン様増殖因子IGF-I・インスリン様増殖因子結合蛋白IGFBP-1およびIGFBP-3と言った4種のインスリン関連マーカーの血中濃度を測定しました。これまでの研究から、インスリンやインスリン様増殖因子は腫瘍の増殖に促進的に、インスリン様増殖因子結合蛋白は抑制的に作用するものと考えられています。
血中のインスリン関連マーカーと大腸腺腫との間に関連が見られたのは男性だけであった
本研究において、男性では、C-ペプチドやインスリン様増殖因子IGF-Iの血中濃度が高いグループで大腸腺腫のリスクが上昇する正の関連が見られました(それぞれの傾向性p は <0.001と0.02)(図1・2左)。また、インスリン様増殖因子結合蛋白IGFBP-1の血中濃度が高いグループで大腸腺腫のリスクが低下する負の関連が見られました(傾向性p = 0.002)(図3左)。一方、女性では、4種のインスリン関連マーカーのいずれにおいても大腸腺腫との関連が見られませんでした(図1-3右)。
なぜ男女差が観察されたのか?
我々は、今回と同様の結果を多目的コホート研究における大腸がんのコホート内症例対照研究でも報告しています(International Journal of Cancer 2007年120巻2007-2012ページ)。同研究においても、研究開始時のC-ペプチドの血中濃度が高い男性でその後の大腸がんリスクが上昇する正の関連が見られました(傾向性p = 0.007)。また、これまでの疫学研究で、大腸腫瘍に対する肥満の影響は男性でより顕著であることが知られています。このような男女差が見られる詳細なメカニズムは不明ですが、少なくとも男性において、肥満はインスリン抵抗性を介したメカニズムで大腸腫瘍リスクの上昇と関連しているものと考えられます。
図1 血中のC-ペプチド(インスリン分泌の指標)と大腸腺腫との関連
年齢・受診時期・絶食時間・喫煙・飲酒・大腸がん家族歴・身長・総エネルギー摂取量で調整。
図2 血中のインスリン様増殖因子IGF-Iと大腸腺腫との関連
年齢・受診時期・絶食時間・喫煙・飲酒・大腸がん家族歴・身長・総エネルギー摂取量で調整。
図3 血中のインスリン様増殖因子結合蛋白IGFBP-1と大腸腺腫との関連
年齢・受診時期・絶食時間・喫煙・飲酒・大腸がん家族歴・身長・総エネルギー摂取量で調整。