国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究
血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連
血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連
―「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」の成果―
肥満は、大腸がんやその前駆病変である大腸腺腫の確実なリスク要因です。そのメカニズムはまだ明らかになっていませんが、肥満による耐糖能の悪化やインスリン感受性の低下が大腸がんや大腸腺腫の発生に関連していると考えられています。
分枝鎖アミノ酸は耐糖能やインスリン感受性を改善する食物要因として大腸腫瘍との関連が示唆されていますが、血中の分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腫瘍との関連を検討した疫学研究はこれまでありませんでした。我々は国立がん研究センターの検診受診者を対象とした大腸腺腫研究のデータを用いて、血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連を検討し、その結果を専門誌に発表しました(Annals of Oncology 2017年)。
「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」は、2004年2月~2005年2月の期間にがん予防・検診研究センター(当時)で大腸内視鏡検査を受けた3,212名のうち、大腸腺腫があった症例群782名と大腸腺腫がなかった対照群738名を対象としています。今回の研究では、研究対象者1,520名(男性:1,008名、女性:512名)の研究用血液を利用し、生体中に見られる3種の分枝鎖アミノ酸(バリン、イソロイシン及びロイシン)の血中濃度を測定しました。その後、血中の分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫の有無について関連解析を行い、対照群の血中濃度に基づき対象者を4群に分け、最も濃度が低い群を基準にオッズ比を算出しました。交絡要因として、年齢、性別、受診時期、大腸がん家族歴、NSAIDsの服用歴、喫煙、飲酒、身体活動、糖尿病の既往、赤肉・加工肉、食物繊維、葉酸、イソフラボン摂取、body mass index (BMI)を考慮しました。
バリン、イソロイシン、ロイシンの血中濃度の和を取り、分枝鎖アミノ酸濃度として大腸腺腫との関連を検討したところ、最も濃度が高い群のオッズ比の値(95%信頼区間)は0.68 (0.48-0.98)と有意なリスク低下が観察されました(図1)。バリン、イソロイシン、ロイシンを個別に検討したところ、イソロイシンでは有意な関連が見られなかったものの、ロイシンとバリンでは最も濃度が高い群で統計学的有意なリスク低下が見られました(図1)。男女別に検討したところ、男性において有意なリスク低下が見られました(図2)。対象者が男性の半分ほどだったためか、女性では有意な関連が見られませんでした(図3)。
今回の結果から、血中の分枝鎖アミノ酸濃度が高くなると大腸腺腫のリスクが低下する可能性が示唆されました。今回の知見と一致して、食事由来の分枝鎖アミノ酸により、耐糖能やインスリン感受性が改善し、細胞増殖作用を持つインスリン様増殖因子Ⅰの働きが阻害され、大腸腺腫の発生が抑制されたとの報告があります。ただし、今回観察された負の関連は、肥満の指標であるBMIで調整することにより、初めて明らかとなりました。血中の分枝鎖アミノ酸濃度は肥満と相関することが知られているため、肥満による大腸腺腫のリスク上昇を差し引く事で、負の関連が観察できるようになったと考えられます。血中の分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腫瘍の研究はまだまだ十分な数があるわけではないので、今回の結果は今後の研究とあわせて解釈される必要があります。
図1 血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連 (全体)
図2 血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連 (男性)
図3 血中分枝鎖アミノ酸濃度と大腸腺腫との関連 (女性)