国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究
血中の脂肪細胞由来ホルモンと大腸腺腫との関連
―「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」の成果―
肥満が大腸発がんと関連している事はほぼ確からしいと考えられていますが、そのメカニズムはまだ明らかになっていません。我々は脂肪細胞由来ホルモンであるアディポネクチンとレプチンに注目し、それらの血中濃度と大腸の前がん病変である大腸腺腫との関連を検討し、その結果を専門誌に発表しました(Cancer Research 2010年70巻5430-5437頁)。
がん予防・検診研究センターで行われている「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」は、2004年2月~2005年2月の期間に大腸内視鏡検査を受けた3,212名のうち、大腸腺腫があった症例群782名と大腸腺腫がなかった対照群738名を対象としています。今回の研究では、研究対象者1,520名の血中アディポネクチン濃度と血中レプチン濃度を測定し、対照群についてほぼ同じ人数となるように3つのグループに分け、大腸腺腫の発生リスクを比較しました。
血中アディポネクチン濃度が上昇すると大腸腺腫のリスクが低下
アディポネクチンもレプチンも専ら脂肪細胞から分泌されるホルモンですが、血中アディポネクチン濃度は脂肪量が低下すると逆に上昇する事が知られています。一方、血中レプチン濃度は脂肪が蓄積すると上昇します。本研究では、血中アディポネクチン濃度が高いグループで大腸腺腫のリスクが低下する傾向が見られました(傾向性p = 0.01)(図1)。血中アディポネクチン濃度の高値群(男性:5.27 μg/ml以上、女性:8.50 μg/ml以上)は低値群(男性:3.65 μg/ml未満、女性:5.77 μg/ml未満)と比較し、大腸腺腫のリスクが約30%低下していました。一方、血中レプチン濃度が高いグループでは大腸腺腫のリスクが上昇する傾向が見られましたが、統計学的有意な関連ではありませんでした(傾向性p = 0.10)。血中の脂肪細胞由来ホルモンと大腸腺腫との関連は男性でより顕著でしたが、統計学的に男女差を認めませんでした。
脂肪細胞由来ホルモンは大腸発がんと密接に関連している可能性がある
血中アディポネクチン濃度と血中レプチン濃度との間に相関がみられる事から、血中アディポネクチン濃度と大腸腺腫との関連を血中レプチン濃度で層別化して更なる検討を行いました(図2)。血中レプチン濃度の低値群では血中アディポネクチン濃度と大腸腺腫との間に関連が見られませんでした(傾向性p = 0.21)。一方、血中レプチン濃度の中・高値群では血中アディポネクチン濃度が高いグループで大腸腺腫のリスクが低下する傾向が見られ、その関連は特に中値群で顕著でした(傾向性p < 0.001)。
血中アディポネクチン濃度と大腸腺腫との関連が血中レプチン濃度によって異なることから、これらの脂肪細胞由来ホルモンが大腸発がんと密接に関連している可能性が示唆されました。肥満と大腸がん発生との間には、脂肪由来ホルモンを介した何らかのメカニズムが働いているのかもしれません。