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国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究

葉酸代謝と大腸腺腫との関連

-「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」の成果-

大腸発がんには、DNAのメチル化が関わっていると考えられています。適切なDNAメチル化の維持には、葉酸が重要な役割を果たしていることが知ら れています。葉酸は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)、メチオニン合成酵素(MTR)、メチオニン合成酵素還元酵素(MTRR)などの酵 素群とビタミンB2、B6、B12などの補酵素群の働きにより代謝され、DNAのメチル化に必要なメチル基を供給しています(図1)。

一方、飲酒は、大腸がんの確立した危険要因です。アルコールには、葉酸の腸吸収を阻害したり、腎排泄を促進したりする作用があるため、その摂取により体内の葉酸レベルが低下することが知られています。

今 回の研究では、飲酒習慣や遺伝子多型など、葉酸代謝に影響を与える諸因子と大腸腺腫との関連を検討しました。大腸腺腫は基本的に良性腫瘍ですが、一部の大 腸腺腫は大腸がんへと進行する可能性があるため、前がん病変として扱われています。大腸腺腫のリスクを評価することは、大腸発がんの初期段階におけるリス クを評価することにつながると考えられます。

今回の研究で取り上げた遺伝子多型(MTHFR C677T, MTHFR A1298C, MTR A2756G, MTRR A66G)は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、メチオニン合成酵素、メチオニン合成酵素還元酵素に見られ、それらのタイプによって葉酸代謝に関わる体 質の差が生じます。

今回の研究の結果を専門誌に発表しましたので、概要を紹介します。
Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention 2009年18巻267-274頁

図1.DNAのメチル化と葉酸代謝

「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」では、2004年2月から2005年2月の期間に大腸内視鏡検査を受けた3,212名のうち、大腸腺 腫と診断された症例群782名と大腸腺腫と診断されなかった対照群738名を研究対象者としています。今回の研究では、白血球検体が利用可能で、遺伝子多 型のタイピングを行うことの出来た、症例群723名と対照群670名を対象としました。

アルコール摂取は大腸腺腫のリスクを上昇

今回検討した、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素、メチオニン合成酵素、メチオニン合成酵素還元酵素に見られる遺伝子多型(MTHFR C677T, MTHFR A1298C, MTR A2756G, MTRR A66G)と大腸腺腫との間に、統計学的有意な関連は見られませんでした。

一方、アルコール摂取と大腸腺腫との間には、統計学的有意な正の関連が見られました(傾向性P = 0.04)。非飲酒グループに比べ、週300g以上飲酒している大量飲酒グループでは、大腸腺腫のリスクが約1.5倍上昇していました。

葉酸、ビタミンB2、B6、B12摂取については、大腸腺腫との間に統計学的有意な関連は見られませんでした。

メチオニン合成酵素の遺伝子多型とアルコール摂取との間に交互作用

メチオニン合成酵素の遺伝子多型(MTR A2756G)は、日本人の約7割でAA型、残りの3割でAG型もしくはGG型です。アルコール摂取と大腸腺腫との関連をAA型と非AA型(AG型もしく はGG型)に分けて調べたところ、統計学的有意な交互作用が見られました(交互作用P = 0.007)。非飲酒者では、AA型に比べて非AA型で大腸腺腫のリスクが約4割減少していました(図2)。

一方、週300g以上飲酒している人では、 AA型に比べて非AA型で大腸腺腫のリスクが約2倍上昇していました(図2)。更に、この遺伝子多型については、葉酸摂取との間にも統計学的に境界域の交互作用が見られました(交互作用P = 0.07)。

図2.MTRA2756Gとアルコール摂取との交互作用

葉酸代謝は大腸発がんの初期段階において重要な役割を果たしている可能性がある

本研究では、アルコールを除き、葉酸代謝に影響を与える個々の因子と大腸腺腫との間に明らかな関連を認めませんでした。しかし、メチオニン合成酵素 の遺伝子多型とアルコール摂取および葉酸摂取との間に交互作用を認めたことは、「葉酸代謝が大腸発がんの初期段階において重要な役割を果たしている」とす るこれまでの研究結果を支持するものであると考えられます。

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