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国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究

検診受診者における胃がんリスク要因と胃粘膜のDNAメチル化レベルとの関連

胃がんリスク要因と胃粘膜のDNAメチル化レベルとの関連

―「がん予防・検診研究センター検診受診者における研究」の成果―


健康な人と胃がんになった人とでは、今までの生活の中で胃の細胞に生じた、それだけではがん化には結びつかないような「遺伝子のひっかき傷」の蓄積の程度(DNAのメチル化レベル)が異なることが示唆されています。実際、胃がんの最大のリスク要因であるヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)感染がある人では胃粘膜のDNAメチル化異常があること、動物実験においてピロリ菌がメチル化異常を誘発することが示されています。しかし、健康な人で、ピロリ菌以外の喫煙、野菜果物低摂取、塩分高摂取などの胃がんのリスク要因がDNAメチル化異常と関連しているかどうかは、よくわかっていません。

 

2009年4月から9月に当センターの上部消化管内視鏡検診を受診し、胃がん既往歴、ピロリ菌の除菌療法を受けたことがない40から69歳の方に研究への協力をお願いし、同意が得られた281名について、胃がんリスク要因と胃粘膜DNAメチル化レベルとの関連を検討しました(Carcinogenesis, 2015年9月WEB先行公開)。

 

上部消化管内視鏡検査時に胃粘膜の生検検体を採取し、マーカー遺伝子(miR-124a-3EMX1NKX6-1)のDNAメチル化レベルを、メチル化特異的PCR法により定量しました。これらのマーカー遺伝子は、胃がんになった人のがんでない部分の胃粘膜でメチル化異常の報告があったものです。喫煙習慣(パック・イヤー[一日の喫煙本数/20×喫煙年数])、緑黄色野菜・果物・塩分摂取量とDNAメチル化レベルとの関連については、ピロリ菌感染の有無別に検討しました。

 

ピロリ菌感染者(n=117)は、非感染者(n=164)に比べてメチル化レベルが、2.5倍から34.1倍と高くなっていました。miR-124a-3のメチル化レベルは、パック・イヤーの増加にしたがい上昇し(図1)、緑黄色野菜摂取量の増加にしたがい低下していました(図2)。他の胃がんのリスク要因の影響を調整すると、パック・イヤー、緑黄色野菜摂取とメチル化レベルについて統計学的に有意な関連が見られました。他の2マーカー遺伝子についても同様の関連性がみとめられました。ピロリ菌未感染者においてはこのような関連性はみとめられませんでした。

 

メチル化図1

 

 

メチル化図2

 

ピロリ菌感染者においてのみ喫煙、野菜摂取とメチル化異常との関連が見られたことから、これらの胃がんリスク要因が、ピロリ菌により引き起こされるDNAのメチル化異常の程度に影響を与えている可能性が考えられました。ピロリ菌によるDNAメチル化異常は、慢性炎症が関係していると考えられていますので、喫煙や野菜が慢性炎症によるDNAメチル化作用を強めたり弱めたりしているのかもしれません。

 

日本人のためのがん予防法」では、ピロリ菌に感染している場合は禁煙する、塩や高塩分食品のとりすぎに注意する、野菜・果物が不足しないようにするなどの胃がんに関係の深い生活習慣に注意することを勧めています。DNAメチル化異常が発がんの分子機構として重要であることを考え合わせると、本研究で示された結果は、禁煙・野菜摂取がピロリ菌感染者の胃がんの予防に有効であることをメカニズムの上から支持するものといえるでしょう。

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