国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究
がん検診受診者を対象とした疫学調査用の食物摂取頻度調査票をもとに食事由来の炎症修飾能を把握する確からしさについて
がん検診受診者を対象とした疫学調査用の食物摂取頻度調査票をもとに食事由来の炎症修飾能を把握する確からしさについて
慢性的な炎症状態は、がんや循環器疾患などの生活習慣に関連した病気のリスクとなることが報告されています。また、炎症状態に関わる生活習慣には様々なものがありますが、食事はその一つであると考えられています。今回、がん検診受診者を対象とした疫学調査で使用している食物摂取頻度調査票(FFQ)をもとに食事由来の炎症修飾能の指標であるDietary Inflammatory Indexを算出し、その確からしさを調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Fornt. Nutr. 2021年4月公開)。
Dietary Inflammatory Indexとは
Dietary Inflammatory Index(DII)は、食事が炎症状態に与える影響を総合的に評価する指標として、約2000件の先行研究から開発されました。すなわち、DIIスコアが負の値であるほど炎症を抑える食事であると評価され、正の値であるほど炎症を促進する食事であると評価されます。欧米諸国では、FFQをもとにしたDIIスコアの確からしさがすでに検証されており、DIIスコアと病気との関連が調べ始められています。しかし、日本人を対象にDIIスコアの確からしさを評価した研究は少なく、特に女性ではDIIスコアの確からしさが確認できなかったという報告があります(JPHC研究におけるDII妥当性研究)。
研究方法の概要と主な結果
2009年5月から2013年12月までの間にがん予防・検診研究センター(当時)でがん検診を受診した40歳から69歳の方で、がん・循環器疾患の既往がないなどの条件を満たした6,474名(男性3,825名、女性2,649名)を対象としました。FFQの食事調査データからDIIスコアを算出し、その値をもとに対象者を4つのグループに分けて血中炎症マーカーである高感度C反応性たんぱく質(hs-CRP)の濃度を比較しました。
図1に、FFQをもとにしたDIIスコアと食品群の摂取量との関係を示します。男性ではDIIスコアが高いほど、砂糖、肉、菓子類の摂取量が多く、女性ではDIIスコアが高いほど砂糖の摂取量が多い傾向にありました。
図1. DIIスコアと食品群別摂取量の関係(上:男性、下:女性)
●印は、DIIスコアが高いほど摂取量が多かった食品、 ●印は、DIIスコアが高いほど摂取量が少なかった食品、 〇印は、DIIスコアと関連がなかった食品。 |
FFQをもとにしたDIIスコアと血中炎症マーカーとの関連は、男性ではDIIスコアが高いほどhs-CRP濃度が高く、統計学的有意な正の関連がみられました。この関連は、年齢、肥満度、医師による処方薬の有無で対象者を分けても変わりませんでした。しかしながら、女性ではそのような関連はみられませんでした(図2)。男性と同様に、年齢、肥満度、医師による処方薬の有無で対象者を分けて解析を行ったところ、処方薬を飲んでいない女性でのみ、DIIスコアとhs-CRP濃度に正の関連が観察されました。
図2. 日本人におけるDIIスコアとhs-CRP濃度との関連
※年齢、肥満度、身体活動、喫煙、処方薬の有無で統計学的に調整
この研究結果からわかること
今回の研究結果から、日本人男性ではDIIスコアとhs-CRP濃度との間に正の関連が観察され、FFQをもとにしたDIIスコアの確からしさを確認することができました。欧米人に比べてhs-CRPがとても低い日本人男性でもDIIスコアの確からしさが確認されたことから、 FFQをもとにしたDIIスコアを多様な男性集団を対象とした疫学研究に用いることができる可能性が示唆されました。
一方、女性では先行研究と同様にDIIスコアと血中炎症マーカーとの関連は観察されず、唯一、処方薬を飲んでいない女性に絞った場合にのみ、DIIスコアとhs-CRP濃度に正の関連が観察されました。
hs-CRP濃度については、健常者よりも高血圧患者で高いことなどが報告されており、何らかの疾患を持ち、処方された薬を服用している集団では、hs-CRP濃度が高くなる可能性があります。本研究では、男女ともに処方薬を飲んでいる人の方がhs-CRP濃度が高く、さらに女性のhs-CRP濃度は男性に比べて低かったことから、女性においては、薬を飲んでいない人に限定することでDIIスコアとhs-CRP濃度との関連が観察しやすくなったのではないかと考えられます。なお、hs-CRP濃度が低い集団での検討は限られているため、日本人女性のようにhs-CRP濃度が極端に低い集団でのDIIスコアの有用性を明らかにするには、さらなる研究が必要だと考えられます。