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国立がん研究センターのがん検診受診者を対象とした研究

血中の中性脂肪と大腸腺腫との関連

-「大腸腺腫の発生要因を探索する症例対照研究」の成果-

運動不足、肥満と飲酒という3つの生活習慣要因によって、大腸がんのリスクが高くなることが知られています。同様の生活習慣によって、高トリグリセリド血症のリスクも高くなります。

高トリグリセリド血症は、高脂血症の一種で、血液中に一定以上の濃度で中性脂肪があふれている状態(150 mg/dl以上)を指し、虚血性心疾患のリスク要因の1つではないかといわれています。

血中の中性脂肪の濃度が高い人では、大腸腺腫(通常、大腸ポリープと言った場合、その多くが大腸腺腫です)が発生しやすくなることが、いくつかの疫学研究で指摘されています。 またそのメカニズムを説明するような動物実験の結果も発表されています。

大腸腺腫は悪性腫瘍ではありませんが、がんに進行するケースも知られ、そのリスクは発がんリスクの参考になります。 そこで、 がん予防・検診研究センターで、がん検診を受診された方に提供していただいた試料を用いて、中性脂肪と大腸腺腫の関連を検討しました。

これまでの研究では、S字状結腸内視鏡による検診がほとんどでした。
当施設の検診で用いられている全大腸内視鏡では、 S状結腸より奥(下行~横行~上行~盲腸)まで検査でき、より精度の高い診断が可能です。

その結果を専門誌で論文発表しましたので、ここに概要を紹介します。
( Cancer Causes Control 2006年17巻1245-1252頁 )

2004年2月から2005年2月までに全大腸内視鏡検査を受けた 3212人のうち、年齢(男性50-79歳、女性40-79歳)や過去の病歴(大腸腺腫、悪性腫瘍などの診断を受けたことがない)などの条件に合ったのは2234人でした。

このうち、受診時に大腸腺腫がみつかった782人全員を症例グループに、これと性別や年齢などの条件をなるべくマッチさせた738人を対照グループに設定しました。

血 液検体を用いて中性脂肪を測定し、65mg/dlより低い(最小値)、68-94 mg/dl、95-127 mg/dl、128 mg/dl以上(最大値)の4つのグループに分け、各グループの大腸腺腫のリスクを比較しました。このグループ分けで対照グループが均等に4つに分かれま す。

中性脂肪の値が高いと、大腸腺腫ができやすい

中性脂肪最大値グループの大腸腺腫のリスクは、最小値グループの1.5倍でした。

中性脂肪と大腸腺腫リスク(3個以上)喫煙状態別


大腸腺腫の個数別にリスクを比較すると、上の図のように、大腸腺腫の個数が多い場合に、中性脂肪の値が高くなるにつれて大腸腺腫のリスクが高くなることがわかりました。中性脂肪最大値グループの3個以上の大腸腺腫リスクは、最小値グループの2.3倍でした。

また、大腸腺腫のサイズを3つに分けると、大、中、小のうち中サイズ(直径5-9mm)では、中性脂肪の影響がみられました。また、大腸腺腫のできやすい部位(複数ある場合には最大のものの部位)は、中性脂肪によっては変わりませんでした。

中性脂肪の大腸腺腫リスクへの影響は、喫煙したことがある人に出やすい

次に、喫煙したことがないグループと、喫煙グループ(現在または過去喫煙者)で、それぞれ中性脂肪と大腸腺腫の関連を調べました。

すると、喫煙グループだけで関連が見られ、中性脂肪の値が高くなるにつれて大腸腺腫リスクが高くなり、中性脂肪最大値のグループの大腸腺腫リスクは、最小値グループの 1.5倍になりました。

中性脂肪と大腸腺腫リスク(個数別)


その影響は、3個以上の大腸腺腫についてみた場合に最も大きく、上の図のように、中性脂肪最大値グループで最小値グループの3.4倍でした。しかし、喫煙したことがない場合には、中性脂肪の影響ははっきりとは現れませんでした。

中性脂肪の値が高い喫煙者は大腸がん検診を

以上から、中性脂肪が高い人ほど大腸腺腫を持っている確率が高く、その数が多いことがわかりました。そして、その傾向は喫煙者で強いことがわかりました。

大腸腺腫の形成では、たばこの発がん物質で細胞が傷害を受けた後に、中性脂肪の作用が始まるのかもしれません。そのメカニズムについては、今後さらに研究を重ねて追求する必要があります。

また、中性脂肪は、必ずしも大腸がんと結びつく訳ではありません。腺腫からがんに進むには、さらに、運動不足や肥満などからくる高インスリン血症のような、別の要因が加わるのではないかと考えられます。

少なくとも、中性脂肪の値が高い喫煙者では、大腸がん検診を受け、ポリープ切除などの早めの処置を行うことで、進行がんや大腸がん死亡を抑制することになるかもしれません。

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