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現在までの成果

食事調査票から得られた食事由来の炎症修飾能の正確さについて

 ―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。食生活と病気との関連を明らかにする研究では、1人1人の食生活を把握する方法の一つとして、食物摂取頻度調査票(FFQ)という比較的簡易なアンケートを用いて、各個人の習慣的な摂取量を推定しています。このFFQから推定した摂取量の正確さを確認することは、食生活と病気との関連について調べた研究結果の信頼性を確保するために必要な過程です。今回、多目的コホート研究の研究開始から5年後に用いられたFFQや詳細な食事内容を把握できる食事記録調査(DR)をもとに食事由来の炎症修飾能の指標であるDietary Inflammatory Indexを算出し、その正確さを調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します(Nutrition. 2020年1月公開)。 

 

Dietary Inflammatory Indexとは

慢性的な炎症状態は、がんや循環器疾患などの生活習慣に関連した病気のリスクとなることが報告されています。また、炎症状態に関わる生活習慣には様々なものがありますが、食事はその一つであると考えられています。

Dietary Inflammatory Index(DII)は、食事が炎症状態に与える影響を総合的に評価する指標として、約2000件の先行研究から開発されました。すなわち、DIIスコアが負の値であるほど炎症を抑える食事であると評価され、正の値であるほど炎症を促進する食事であると評価されます。欧米諸国では、DIIスコアと炎症状態との妥当性がすでに検証されており、DIIと病気との関連が調べ始められています。しかし、日本人を対象にこの指標の妥当性を検討した報告はこれまでにありませんでした。

 

研究方法の概要と主な結果

多目的コホート研究に参加した男女のうち、5年後調査で用いられたFFQに1年間隔で2回答え、さらに28日間の食事記録調査(DR)と採血にご協力いただいた565人の男女を対象としました(コホートⅠは215名、コホートⅡは350名)。FFQとDRの2つの食事調査方法から、それぞれのDIIスコアを算出し、その値をもとに対象者を4つのグループに分けて血中炎症マーカーの濃度を比較しました。炎症マーカーには、高感度C反応性たんぱく質(hs-CRP)とインターロイキン-6(IL-6)を用いました。また、2つのコホートでは調査年が異なるため、コホート別に解析を行いました。

FFQとDRから計算したDIIスコア同士の相関係数(この値が1に近いほど簡易なFFQでの摂取量推計が確からしいことを示す)は、コホートⅠでは男性で0.35、女性で0.39、コホートⅡでは男性で0.48、女性で0.47でした。さらに、DIIスコアの値が小さい者から5つのグループに分けて順序付けし、2つの調査方法間でその順序の一致度を確認したところ、高く一致することがわかりました(κ係数は0.8以上)。 ※κ係数=2つの評価間の一致度を表す場合に用いられる統計量の1つ

DIIスコアと炎症バイオマーカーの関連については、男性ではDRおよびFFQのいずれにおいても、DIIスコアが高いほどIL-6濃度が高く、統計学的有意な正の関連がみられましたが、女性では関連がみられませんでした(図1、2)。一方、男女とも、DIIスコアとhs-CRPには統計学的有意な関連はみられませんでした。

 

図1. 日本人男性におけるDIIスコアと炎症マーカー(IL-6)の関連

456_1

※年齢、BMI、身体活動、喫煙で統計学的に調整

 

図2. 日本人女性におけるDIIスコアと炎症マーカー(IL-6)の関連

456_2
※年齢、BMI、身体活動、喫煙で統計学的に調整

 

この研究結果からわかること

今回の研究結果から、日本人男性においてはDRおよびFFQから計算したDIIスコアは、疫学研究を行うために必要な、ある程度の正確さがあることがわかりました。男性において、hs-CRPではなくIL-6で関連がみられた理由は、IL-6がhs-CRPの上流マーカーであり、循環器系疾患ではCRPよりもIL-6で関連がみられるという報告があることから、IL-6がhs-CRPに比べて敏感な炎症マーカーであったことが影響していると考えられます。しかしながら、日本人女性ではDIIスコアと炎症マーカーの関連は観察されませんでした。この原因は明らかではありませんが、DIIスコアの平均値が男性に比べて低いことから、関連が見えにくかった可能性があります。さらに、本研究では炎症状態に影響を与える女性の生殖関連要因(月経周期やホルモン補充療法の有無)を調整できなかったことが限界として挙げられます。したがって、日本人女性を対象とした研究でDIIスコアを用いるには、さらなる検討が必要であると考えられます。この結果は今後、多目的コホート研究で、DIIスコアと炎症がリスクとなる病気との関連を分析する際の重要な基礎資料となります。 

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