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多目的コホート研究(JPHC Study)

2006/5/26 健診グループという特定集団の相対リスクは一般化できるのか

多目的コホート(JPHC)研究から、健診受診者という特定集団の喫煙習慣またはやせ過ぎによる寿命前の死亡リスクを、一般住民に応用できる可能性を調べた結果が発表されました。(「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・エピデミオロジー」2006年4月発行)。

今回の研究のテーマは、疫学研究の方法とその結果の応用について考えるものです。

ある特定集団の研究結果は、集団全体に応用できるのか

欧米では、医師、看護師、健康診断受診者など、特定の条件の下に対象者を絞った大規模な前向き研究がたくさんあります。また、日本でも、多くは健康診断受診者などを対象に行われているのが現状です。

特定集団を対象にすると、研究への参加者を募りやすいだけでなく、健康意識や問題意識の高い人からは質の高いデータを確実に集められるという利点があります。そうした先行研究の結果は、科学的根拠として、政策の立案などに参考にされています。

もちろん、特定の集団では、一般集団とは死亡率や病気の発生率が違います。集団によって、喫煙率など、リスク要因の保有率が違うからです。しかし、たとえば、たばこを吸う人の死亡リスクが吸わない人の何倍か、という相対リスクについてはどうでしょうか。もし、対象となった特定集団と一般集団の死亡率の差が、たばこを吸う人でも吸わない人でも同じだとすると、割り算するときに相殺されるはずです。そういうわけで、特定集団の相対リスクは、集団全体にもある程度当てはめられるだろうと考えられてきました。

しかし、例えば健康診断を受けに来た人ばかりを集めて研究対象とした場合に、その結果として得られた相対リスクが実際にどの程度一般住民に当てはまるのか、という可能性(外的妥当性)については、まだ十分には検討されていません。

多目的コホート研究では、原則として、ある時期にある年齢層のある地域に住んでいた方全員を対象に生活習慣等の調査を行った後、死亡や病気の発生について追跡調査を行っています。その一部の方からは、住民健康診査のデータを提供していただいています。

そこで、約4万5500人の40-69歳の男性のデータを用いて、そのうちの健診受診者集団を特定集団と考え、その相対リスクを、集団全体の相対リスクと比較してみました。

喫煙習慣またはやせ過ぎによる死亡リスク

今回の研究では、喫煙による健診受診者の死亡リスクは一般住民よりも過大評価されていました。たばこを吸う人の死亡リスクは、たばこを吸わない人に比べ、健診受診者だけでは 1.8でしたが、一般住民では1.5になりました。

逆に、BMIが23-24.9の標準体型の男性に比べたBMIが19未満のやせ過ぎによる死亡リスクは過小評価され、見逃されていたかもしれないことがわかりました。健診受診者だけでは1.3でしたが、一般住民で2.1になりました。

健診受診集団では、予想通り、一般集団よりも死亡率が低くなりました。しかし、健診受診者の喫煙状況またはBMIによる死亡率の変化は、一般集団と必ずしも平行というわけではありませんでした。そのために、あるリスク要因による相対リスクが過度に評価される結果となったのです。

特定集団からの結果の応用は、慎重な検討が必要

この結果から、疫学研究の結果として、健診受診者など、特定の集団を対象に算出された死亡や発病の相対リスクの値を、そのまま一般化できるとは限らないことがわかります。特定の集団の結果をもとに、集団全体の死亡や病気の将来の動向を見積る場合などには、少なくとも、いくつかの同様の研究結果を注意深く検討する必要があるでしょう。

詳しくは、ホームページに掲載された概要版をご覧ください。

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