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多目的コホート研究(JPHC Study)

血中緑茶ポリフェノールと乳がん罹患との関係について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年(1993年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所(呼称は20010年現在)管内にお住まいだった、40~69才の女性約2万5000人の方々を、平成14年(2002年)まで追跡した調査結果にもとづいて、血漿中の緑茶ポリフェノール濃度と乳がん発生率との関連を調べた結果を専門誌で論文発表しましたので紹介します (Breast Cancer Res Treat. 2010年124巻 827-834ページ)。

保存血液を用いた、コホート内症例対照研究

多目的コホート研究を開始した時期(1990年から1995年まで)に、一部の方から、健康診査等の機会を利用して研究目的で血液を提供していただきました。今回の研究対象に該当し保存血液のある女性約2万5000人のうち、10年半の追跡期間中、144人に乳がんが発生しました。乳がんになった方1人に対し、乳がんにならなかった方から年齢・居住地域・採血日・採血時間・空腹時間・閉経状況の条件をマッチさせた2人を無作為に選んで対照グループに設定し、合計432人を今回の研究の分析対象としました。

保存血液を用いて、血漿中の主な4種類の緑茶ポリフェノール<エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン3ガレート(EGCG)、エピカテキン3ガレート(ECG)、>の濃度を測定し、それぞれ値によって3つのグループに分け、乳がんリスクを比較しました。緑茶を飲む回数や杯数を尋ねるアンケート調査では、茶葉の種類や入れ方などによる実際のカテキン摂取量の差まではわかりません。このように直接血中濃度を測定することにより、より正確にカテキンの摂取量を把握できると期待されます。

血中緑茶ポリフェノール濃度と乳がんリスクの間には関連を認めない

今回の研究においては、いずれの緑茶ポリフェノールについても、濃度が高い群での乳がんリスクの低下は見られませんでした(図)。また、アンケートの回答をもとに閉経前と閉経後に分けた解析結果も同様でした。

図 血中緑茶ポリフェノール濃度と乳がんリスク

この研究について

緑茶に豊富に含まれるポリフェノール類には抗酸化作用があり、細胞および動物実験から乳がんを予防する可能性が示されています。しかしヒトを対象とした疫学研究では、緑茶と乳がんリスクとの関連は一致していません。これまではアンケート調査により緑茶の摂取量を把握した研究が多く、血中緑茶ポリフェノールなどの生体指標と乳がんリスクとの関連を前向きに検討した研究は今回が最初です。その結果、緑茶ポリフェノール濃度は乳がんリスクに関連していませんでした。これは緑茶に含まれるポリフェノール類の作用により乳がんリスクが低下するという仮説に反するものですが、結果の解釈については以下の点を考慮する必要があります。日本人は緑茶を比較的よく飲むにも関わらず今回の分析で緑茶ポリフェノールが検出できた人は20-30%と低いこと、緑茶ポリフェノールは緑茶を飲用してから比較的短時間のうちに代謝されること、分析に伴う誤差があること、などから研究開始時の一時点での血中レベルでは日常的に緑茶ポリフェノールを多く摂っている人とそうでない人を正しく分けることができなかった可能性があります。また今回の解析対象者数は必ずしも多いとは言えず偶然の可能性は否定できません。

研究用にご提供いただいた血液を用いた研究の実施にあたっては、具体的な研究計画を独立行政法人国立がん研究センターの倫理審査委員会に提出し、人を対象とした医学研究における倫理的側面等について審査を受けてから開始します。今回の研究もこの手順を踏んだ後に実施いたしました。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

多目的コホート研究では、ホームページに保存血液を用いた研究計画のご案内を掲載しています。

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