多目的コホート研究(JPHC Study)
酸化能・抗酸化能とがん罹患リスクとの関連について
―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―
私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の4つの保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~59歳の方々と、平成5年(1993年)に茨城県水戸、新潟県長岡、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の6つの保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった40~69歳の方々のうち、調査開始から5年後のアンケート調査に回答してくださり、健診などの機会に血液を提供してくださった男女約3万2千人の方々を最長で平成27年(2015年)まで追跡した調査結果に基づいて、酸化能・抗酸化能とがん罹患リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Br J Cancer. 2026年3月Web先行公開)。
人体では、酸素(O2)や他の分子との反応によって、スーパーオキシドアニオン(O2⁻)、過酸化水素(H2O2)、ヒドロキシルラジカル(•OH)といった反応性が非常に高い活性酸素種(Reactive oxygen species、ROS)が生成されています。人体に存在する過剰なROSは酸化ストレスとなり、DNAやタンパク質に障害を引き起こし、発がんを誘発する可能性があります。一方、そのような酸化ストレスに対する防御システムとして、人体にはROSを除去する抗酸化能という重要な機能があり、酸化能と抗酸化能との間で巧みなバランスが保たれています。したがって、生体の酸化能ならびに抗酸化能を評価し、発がんにどのような影響を及ぼすのかを調べることは意義があると考えられます。
そこで、本研究では、血漿中の酸化能を評価することができるderivatives of reactive oxygen metabolite (d-ROM)と抗酸化能を評価することができるbiological antioxidant potential (BAP)という2つの血漿バイオマーカーを用いて、全がんおよび様々な部位別がんの罹患リスクとの関連を検討しました。なお、これまでの先行研究では、d-ROMと胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、前立腺がんとの関連は報告されていましたが、本研究は、d-ROMと全がん罹患リスク及び部位別がんとの関連を包括的に検討した初めての研究であり、先行研究の知見をさらに拡張するものです。さらに、本研究はBAPを用いて、がん罹患リスクとの関連を明らかにすることを目的とした初めてのコホート研究です。
研究方法の概要
本研究では、母集団となる約3万2千人から把握された4,718人のがん罹患者の方々と、同じく母集団となる約3万2千人から無作為に抽出されたサブコホート4,815人の方々の血漿を用いて、酸化能を反映するd-ROMおよび抗酸化能を反映するBAPの濃度を測定し、その値に基づいたグループ分けを行いました。具体的には、がんの罹患者数が比較的多いがんの検討を行う時は4グループに、がんの罹患者数が比較的少ないがんの検討を行う時は3グループに分けました。
統計解析では、d-ROM・BAPの各4グループおよび3グループについて、一番値の低いグループを基準として、全がんおよび部位別がんの罹患リスクを検討しました。検討した部位別がんは、頭頸部がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん、肝内胆管がん、胆道がん、膵臓がん、白血病、肺がん、皮膚がん、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、前立腺がん、腎臓がん、上部尿路がん、膀胱がん、リンパ腫です。
この解析を行うにあたり、がんの罹患リスクに影響を与える可能性がある、年齢、性別、地域、肥満度、糖尿病既往歴、喫煙状況、飲酒状況、身体活動量を統計学的に調整し、乳がん、子宮体がん、卵巣がんについては初潮年齢、閉経状況、ホルモン剤使用状況、出産回数を調整変数として追加しました。
酸化能を反映するd-ROMは肝細胞がんおよび肺がんの罹患リスク上昇と関連し、抗酸化能を反映するBAPは胃がんの罹患リスク低下と関連
酸化能を反映するd-ROMについて解析したところ、血漿中のd-ROM濃度が最も高い群では、肝細胞がん、肺がん、上部尿路がんの罹患リスクが統計学的有意に上昇しました。さらに、これらのがんでは血漿中のd-ROM濃度が高くなるほど罹患リスクが上昇するという正の関連もみられました。一方、全がんおよび他の部位のがんの罹患リスクとの関連は見られませんでした。((図1a, 図2b))
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図1a. 血漿d-ROM濃度と全がんおよび部位別がんの罹患リスクとの関連
ハザード比:血漿d-ROM濃度にもとづき4グループに分け、最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比(赤色が統計学的有意)
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図1b. 血漿d-ROM濃度 (3分位)と全がんおよび部位別がんの罹患リスクとの関連
ハザード比:血漿d-ROM濃度にもとづき3グループに分け、最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比(赤色が統計学的有意)
次に、抗酸化能を反映するBAPについて解析したところ、血漿中のBAP濃度が最も高い群では、胃がんの罹患リスクが低下し、血漿中のBAP濃度が高くなるほど胃がんの罹患リスクが低下するという負の関連が見られました。一方、全がんおよび他の部位のがんの罹患リスクとの関連は見られませんでした。(図2a, 図2b)
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図2a. 血漿BAP濃度 (4分位)と全がんおよび部位別がんの罹患リスクとの関連
ハザード比:血漿BAP濃度にもとづき4グループに分け、最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比(紫色が統計学的有意)
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図2b. 血漿BAP濃度 (3分位)と全がんおよび部位別がんの罹患リスクとの関連
ハザード比:血漿BAP濃度にもとづき3グループに分け、最も低いグループを1とした場合の、最も高いグループのハザード比(統計学的有意なし)
まとめ
本研究では、血漿d-ROM濃度は肝細胞がん、肺がん、上部尿路がんの罹患リスク上昇と関連し、血漿BAP濃度は胃がんの罹患リスク低下と関連していることが示されました。しかし、上部尿路がんの関連においては症例数が少ないため、明確な結論を出すことは難しいと考えられます。また、本研究では全がんおよび上記以外の部位別がんについては関連が見られませんでした。このことから、酸化能が高いことは特定のがんの発生に寄与し、抗酸化能が高いことは特定のがんの抑制に寄与する可能性があります。
なお、血漿d-ROM濃度と肺がんの正の関連については、先行研究の結果と一致していました。血漿d-ROM濃度と肝細胞がんの正の関連および血漿BAP濃度と胃がんの負の関連については、世界で初めての報告になると思われますが、他の酸化・抗酸化バイオマーカーを用いた研究でも確認される必要があると考えています。
本研究の限界点として、他の観察研究と同様に未測定の交絡因子の影響を完全には排除できていない可能性や、一部の部位のがんでは症例数が比較的少なかったため、さらなる研究によってエビデンスを蓄積していくとともに、日本人以外の集団において同様の検討を行う必要があります。
多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液などの生体試料を用いた研究は、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」などに則り、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画の下で実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ウェブサイトをご参照ください。
国立がん研究センターがん対策研究所では、私たちの研究成果を含む、これまでの多くの研究結果から、日本人のためのがん予防法や健康寿命延伸のための提言をまとめています。
下記もご覧ください。
日本人のためのがん予防法
https://epi.ncc.go.jp/can_prev/index.html
https://epi.ncc.go.jp/files/02_can_prev/cancer_prevention_brochure.pdf
健康寿命延伸のための提言

