トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >飲酒(アルコール摂取)と鉄代謝マーカーとの関連
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

飲酒(アルコール摂取)と鉄代謝マーカーとの関連

―多目的コホート研究(JPHC研究)からの成果報告―

 私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。平成2年(1990年)と平成5年から6年(1993年から1994年)に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所管内(呼称は2019年現在)にお住まいだった方々のうち、調査開始時のアンケートに回答し、かつ健診などの機会に血液をご提供下さった40~69歳の約4,500人の男女の調査結果にもとづいて、飲酒(アルコール摂取)と血液中の鉄代謝マーカーとの関連を調べた結果を論文発表しましたので、ご紹介します(The Journal of Nutrition 2026年5月Web先行公開)。

 

鉄代謝とは

 体内に過剰な鉄が蓄積すると、酸化ストレスを引き起こす可能性があります。人体には、積極的に鉄を排出する機構が存在せず、主に肝臓で産生されるホルモンであるヘプシジンが、体内の鉄代謝を調節する役割を担っています。このヘプシジンが低いと、血液中の鉄が増加し、体内に過剰な鉄が蓄積します。この作用から、血液中のヘプシジン、鉄、フェリチン(鉄貯蔵量の指標)は鉄代謝の指標(マーカー)として用いることができます。これまでの疫学研究により、飲酒者は鉄貯蔵量が増加する傾向にあることが示されています。また、アルコール摂取がヘプシジンの産生を抑制することが示唆されていますが、いずれの研究も、小規模集団での検討であること、マウスを用いた実験的研究であること、アルコール性肝疾患患者と健康な参加者(対照群)との比較であることなど、限界がありました。さらに、ヘプシジンの産生は女性ホルモンであるエストロゲンによって抑制されることが知られており、その抑制が閉経前の女性における鉄欠乏の予防や、閉経後の女性における鉄過剰の緩和に寄与していることから、解析に性別や閉経状況を考慮する必要があります。しかし、これまでのところ、性別や閉経状況を考慮して習慣的な飲酒(アルコール摂取)と血中ヘプシジン値との関連を調査した大規模な疫学研究は存在しません。

 以上の背景を踏まえ、本研究では、大規模な地域住民集団を対象に、「習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)が多いほど、血中ヘプシジン値が低く、鉄貯蔵量が多いのか」を明らかにすることを目的としました。

 

保存血液を用いた多目的コホート研究について

 今回の研究では、調査開始時のアンケートに回答し、かつ健診などの機会に血液をご提供下さった40~69歳の男女約34,000人の中から、約4,500人を無作為に選び、保存された血液を用いて血漿*中のヘプシジン、鉄、フェリチンを測定しました。調査開始時のアンケートで飲酒に関して回答が不十分であった者、肝臓疾患の既往のある者などを除外して、男性1,396人、閉経前女性538人、閉経後女性 1,753人を解析の対象者としました。習慣的な飲酒(アルコール摂取)を、非飲酒(月1日未満)、時々(月1~3日)飲酒、週1日以上の規則的飲酒に分けました。さらに、週1日以上の規則的飲酒を、1週間当たりの飲酒量(エタノール換算量、g(グラム))を算出して、男性では150 g未満、150–300 g、300 g 以上の3つのグループに、女性では150 g未満と150 g以上の2つのグループに分けました。解析では、線形回帰モデルを用いて、各飲酒グループの鉄代謝マーカーの幾何平均値**を算出した後、非飲酒グループを基準として、その他のグループにおける幾何平均値の比(幾何平均比)を算出しました。年齢、居住地域、採血時間(午前、午後)、体格(Body Mass Index: BMI)、喫煙、血漿中の高感度CRP値(炎症の指標であり、炎症によりヘプシジンやフェリチンが誘導されることを考慮)を統計学的に考慮し、これらの影響をできるだけ取り除いた調整幾何平均比を、各飲酒グループの比較に用いました。

*血漿とは、血液のうち、赤血球・白血球・血小板などの細胞成分以外の液体成分のこと。

**幾何平均値とは、N個の値を掛け合わせた値のN乗根をとった値のこと。

 

男性と閉経後女性において、習慣的なアルコール摂取量が多いほど、鉄とフェリチン値が高かった

図1 習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)と血漿鉄代謝マーカーとの関連(男性)

(クリックして拡大)

 

図2 習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)と血漿鉄代謝マーカーとの関連(閉経後女性)

(クリックして拡大)

 

 男性において、習慣的なアルコール摂取量が多いほど、鉄とフェリチン値が統計的に有意に高くなりました(図1)。閉経後女性においても、同様の傾向が認められました(図2)。閉経前女性においては有意な関連はみられませんでした(図なし)。

 

男性と閉経後女性において、習慣的なアルコール摂取量が多いほど、フェリチン値に対するヘプシジンの比(ヘプシジン/フェリチン比)が低かった

 通常、フェリチン値が上昇すると(貯蔵鉄が多い状態になると)ヘプシジンが増加し、血中の鉄を減少させる方向に働きます。すなわち、血中ヘプシジン値とフェリチン値には強い正の相関があることが知られています。ところが、図1,2に示されるように、本研究では、血清フェリチン値はアルコール摂取量の増加に伴って上昇したものの、ヘプシジン値の対応する上昇は認められませんでした。そこで、フェリチン値に対するヘプシジンの比(ヘプシジン/フェリチン比:貯蔵鉄量に対するヘプシジン値)をみました。その結果、男性と閉経後女性において、習慣的なアルコール摂取量が多いほど、ヘプシジン/フェリチン比が、統計的に有意に低くなりました(図3)。

 

 

図3 習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)とヘプシジン/フェリチン比との関連(男性と閉経後女性)

(クリックして拡大)

 

今回の研究からみえてきたこと

 男性と閉経後女性において、習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)が多いほど血漿鉄およびフェリチン値が有意に上昇し、貯蔵鉄量が多い傾向がありました。また、フェリチン値が上昇したにもかかわらず、それに対応するヘプシジン値の上昇はみられず、むしろヘプシジン/フェリチン比は有意に低下しました。このことは、習慣的な飲酒(アルコール摂取)が、ヘプシジンを抑制し、それが鉄貯蔵量の増加につながるというメカニズムを疫学的に支持するものです。したがって、習慣的に飲酒をする人においては、ヘプシジンの相対的な抑制によって鉄過剰が生じる可能性があることが示唆されました。

 一方で、閉経前女性は月経などによる鉄需要が高く、生理的にヘプシジン値が低く抑えられているため、アルコール摂取によるヘプシジン値や鉄貯蔵への影響が現れにくいと考えられます。

 今回の研究では習慣的な飲酒量(アルコール摂取量)と女性の閉経状況が自己申告に基づいていること、鉄代謝マーカーに影響を与える炎症性疾患の調整が不十分であること、鉄代謝に影響する薬剤および食事によるヘム鉄摂取やサプリメントの使用を考慮していないことなどが限界点としてあげられ、今後のさらなる研究が必要です。

 

 多目的コホート研究の参加者からご提供いただいた血液を用いた研究は、国立がん研究センターの倫理審査委員会の承認を得た研究計画をもとに、「疫学研究に関する倫理指針」や「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」などに則って実施されています。国立がん研究センターにおける研究倫理審査については、公式ホームページをご参照ください。

 多目的コホート研究では、ホームページで保存血液を用いた研究のご紹介を行っています。

上に戻る