トップ >多目的コホート研究 >現在までの成果 >BMI、体重変化と脳卒中発症との関連について
リサーチニュース

JPHCに関するお問い合わせはこちら
 


 

多目的コホート研究のメールマガジン購読申込みはこちら

多目的コホート研究(JPHC Study)

BMI、体重変化と脳卒中発症との関連について

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の9保健所(呼称は2010年現在)管内にお住まいだった方々のうち、循環器病にもがんにもなっていなかった45~74歳の男女約7万2000人を、2005年まで追跡しました。

本研究では、5年後調査のBody Mass Index(体格指数、以下BMIと略)、ならびに研究開始時と5年後調査から求めた過去5年間の体重変化を指標とし、平均7.9年の追跡期間中の新たな脳卒中発症との関連を調べました。体格指数は、BMIが19kg/m²未満、19~20 kg/m²、21~22 kg/m²、23~24 kg/m²、25~26 kg/m²、27~29 kg/m²、30 kg/m²以上の7グループに、5年間の体重変化は10%以上減少、3~10%減少、±3%以内、3~10%増加、10%以上増加の5グループに分類しました。脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の病型に分けて検討しました。この研究結果を国際学術専門誌に発表しましたので紹介します。
International Journal of Obesity 2011年35巻283-91ページ

これまでの欧米の研究からは、BMIと脳卒中発症との間に強い関連が認められてきましたが、我が国において、BMIと体重変化が脳卒中発症にどのように影響を与えるのか疫学的な検討はあまりされていませんでした。

女性においてBMI27kg/m²以上から全脳卒中リスクが上昇。男性では関連は認めず

追跡調査中に、2,019人の脳卒中発症(うち、脳出血616人、くも膜下出血251人、脳梗塞1143人)が確認されました。まず、男女別にBMIと脳卒中発症との関連について、年齢、地域、喫煙、飲酒、高血圧、糖尿病の有無を調整しながら検討しました(図1)。その結果、男性ではBMIと脳卒中の発症との関連は認められませんでした。一方、女性では、BMI27kg/m²から全脳卒中のハザード比が上昇し、30kg/m²以上では、23.0~24.9kg/m²に比べて2.16倍まで上昇しました。また、脳出血、脳梗塞においてもハザード比がBMI30kg/m²以上のグループで有意に上昇しました。

図1 BMI レベルにみた全脳卒中、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞の発症リスク

過去5年間の体重変動は、女性において10%以上増加した場合に脳卒中発症リスクが上昇

次に、過去5年間の体重変動とその後の脳卒中発症リスクとの関連を調べました(図2)。年齢、地域、喫煙、飲酒、高血圧、糖尿病の有無、さらにベースラインのBMIを調整しながら検討を行いました。体重変動は、±3%以内が望ましいとされていますので、そのグループを基準に脳卒中発症のハザード比を求めました。
結果、男性では体重変動と脳卒中発症との関連は認めませんでしたが、女性においては10%以上増加した人は、体重変化が±3%以内に比べて1.49倍リスクが上昇しました。

 

図2 過去5年間の体重変化と全脳卒中発症リスク

喫煙や生活習慣病(高血圧・高脂血症・糖尿病)の影響について

これまでの欧米の研究から、BMIや体重変動は、喫煙や生活習慣病の有無に大きく影響を受けることが指摘されてきました。そこで、私たちも喫煙の有無や生活習慣病の有無別にBMIレベルと脳卒中発症との関連を検討しました。
男性では、非喫煙者においてBMIレベルと脳卒中発症との間にゆるやかな正の関連を認めましたが、BMIの各グループのハザード比は統計学的に意味のある数値ではありませんでした。また、喫煙者は、BMIの値に関わらず、非喫煙者でBMI23.0~24.9kg/m²の人に比べ、いずれのBMIのグループにおいても約1.6倍脳卒中発症リスクが上昇していました。このことは、肥満の有無にかかわらず、喫煙により脳卒中発症のリスクが上昇すると解釈できます。
また、生活習慣病の有無別に検討したところ、生活習慣病のない群において、男性のBMIレベルと脳卒中発症との関連は認めませんでしたが、女性ではBMIの増加にともなってハザード比が有意に上昇しました。また、生活習慣病の保有者では、女性ではBMIレベルと脳卒中発症のハザードとの間にはU字の関連を認めました。

まとめ

本研究から、女性において、BMIの増加、あるいは過去5年間の体重の増加が全脳卒中、とりわけ脳梗塞の危険因子になることがわかりました。一方、男性ではBMIと脳卒中発症との関連は弱いことがわかりました。どうして男女で肥満の影響が異なるのか十分な説明は難しいのですが、男性では喫煙が高いこと(本集団の男性の喫煙率は46.9%であり、BMIの低いグループの方が喫煙率は高い傾向にありました)、あるいは、生活習慣病のなかでも高血圧の影響が強いこと等が、脳卒中発症に対して肥満の影響を小さくしていると考えられました。
女性での脳卒中発症リスクはBMI27kg/m²から有意に上昇しており、中年期以降の体重管理は、脳卒中予防に対して重要であることがわかりました。

上に戻る