-「多目的コホート研究（JPHC研究）」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・心筋梗塞などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。平成2年（1990年）と平成5年（1993年）に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古、大阪府吹田の10保健所（呼称は2005年現在）管内にお住まいだった、40～69才の男女約10万人の方々を、平成19年（2006年）まで追跡した調査結果にもとづいて、肥満度（BMI）と腎がん発生率との関連を調べた結果を、専門誌で論文発表しましたので紹介します。(Ann Epidemiol. 2010年20巻466-472頁)

日本人では肥満もやせもリスク上昇

調査開始時の身長と体重から肥満度（BMI：体重（kg）÷［身長（m）］²）を算出し、それを男性では５グループ、女性では３グループに分けて、その後の腎がんの発生率を比較しました。調査開始から約13年間の追跡期間中に、調査対象者約10万人のうち男性101人、女性38人が腎がんにかかりました。
男性では、BMIが21未満のグループと27以上のグループで発生率が高くなるU字型の傾向がみられました。BMIが23-24.9のグループと比較して、BMIが21未満のグループの発生率は、約1.9倍リスクが高く、BMIが27以上のグループの発生率は、約2倍リスクが高くなっていました（図）。一方、女性では、BMIが21未満のグループでは、その後のがん全体の発生率には特に違いがみられませんでしたが、BMIが25以上のグループの発生率は、BMIが23-24.9のグループと比較して、約1.6倍リスクが高くなっていました（図）。

日本人でも肥満で腎がんのリスク上昇が確認

多くの研究で、肥満が腎がんのリスク要因であると報告されています。ところが、これらは、欧米のような肥満の人の割合が多い国からの報告が多く、肥満の割合が大きく異なるアジアからの報告はほとんどありませんでした。今回の研究では、肥満の人の割合が少ない日本人でも肥満は腎がんのリスクであることが確認されました。
肥満はインスリン抵抗性を引き起こし、インスリン様成長因子(insulin-like growth factor I, IGF-I)が高くなり、細胞増殖の誘導やアポトーシスの阻害などにより、がんのリスクが高まると考えられています。加えて、肥満の人では糸球体濾過率と腎血漿流量が増加していることが、腎臓に障害を及ぼしていることが報告されており、そのために、発がん物質に対する感受性が高くなっている可能性も考えられます。

日本人はやせで腎がんリスク上昇の可能性

今回の研究では、男性ではBMIが21未満のグループでも発生率が高くなるU字型の傾向がみられました。この研究の腎がんの件数はそれほど多くなく、女性ではU字型の関連が明らかにはなっていないので、結果が偶然に得られた可能性もありますが、この研究は、BMIと腎がんでU字型の関連がみられた初めての報告です。
中高年層の欧米人におけるBMIが30以上の肥満の人は、ヨーロッパで約15-20％、米国で約30％と報告されていますが、日本人では肥満の割合は2-3%と少なく、約20％はBMIが21未満のやせているグループに属しています。日本人の分布は欧米人と比較してやせている方にかたよっていることから、「やせ」の人の影響が明らかになったと考えられます。また、免疫抑制剤を投与されている人では、腎がんを含むがんのリスクが高くなることが報告されていますが、BMIの低い人には、免疫反応の低下との関連が報告されている低栄養の人も含まれていることも一つの可能性として考えられます。
よく、がんになった結果やせたのではないか、といわれますが、研究が始まって数年間以内に腎がんにかかった人を除いても、同じ結果だったので、もともとやせているということで、将来腎がんになりやすいのではないかと考えられます。また、喫煙は腎がんのリスク要因であるとされています。やせている人には喫煙者が多いのでリスクが高くなったのでは、と考えられたので、喫煙の有無にわけた解析も行いましたが、喫煙をしていなくても、BMIの低いグループでリスクの上昇がみられたので、BMIの低いグループのリスクの上昇は喫煙では説明ができませんでした。

日本人はやせにも注意

多目的コホート研究では、すでに、BMIとがん全体との関連について、肥満でもやせでもリスクが上昇するU字型の関連が報告されています。さらに、今回の結果もふまえると、わが国のように欧米と比較して平均的にやせている人が多い国では、肥満だけでなくやせも予防することが、がんを防ぐために重要と考えられました。