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現在までの成果

男性が10年間で大腸がんを発生する確率について:危険因子による個人のがん発生の予測

-「多目的コホート研究(JPHC研究)」からの成果-

私たちは、いろいろな生活習慣と、がん・脳卒中・虚血性心疾患・糖尿病などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防に役立てるための研究を行っています。

茨城県水戸、新潟県柏崎、高知県中央東、長崎県上五島、大阪府吹田、沖縄県宮古の6保健所(呼称は2004年現在)管内にお住まいの方々のうち、平成5年(1993年)に生活習慣に関するアンケート調査に回答していただいた40~69歳の男性約28,000人を、その後平成17年(2005年)まで追跡した調査結果に基づいて、10年間で個人が大腸がんを発生する割合を予測するモデルを構築しました。予測の確からしさについては、この研究の別の地域の対象者約18,000名で確認しました。
その結果を、専門誌で論文発表しましたので、紹介します。
( Cancer Epidemiology 2010年34巻:534-41頁 )

がんの発生確率を求めるための予測モデルとは

がんをはじめとした生活習慣病とリスク因子の関連については、主に「相対的な」指標の算出を目的とした研究が行われています。たとえば、タバコを吸わない人に比べて吸う人では肺がんのリスクが5倍である、コーヒーをほとんど飲まない人に比べて1日5杯以上飲む人では肝がんのリスクが約1/4である、などです。しかし、実際にがんにかかる人を減少させるには、私たち一人ひとりが生活様式を見直す必要があります。そのためには集団のリスクよりもむしろ1人1人のがんの発生確率がわかるような指標が役立つと考えられます。そこで今回の研究では、これまでの研究でリスク因子についてよく調べられている大腸がんについて、ある人が10年間にかかる確率を予測するモデルを構築しました。

5つの危険因子で大腸がんのリスクを予測する

まず、大腸がんを予測するために、この研究の中で、大腸がんの発生と深く関わっている因子を割り出しました。すると、日本人男性の場合、年齢、肥満度、身体活動、飲酒、喫煙の5つの因子が重要であることがわかりました(表)。いずれも、国際的にも大腸がんの発生リスクとの関連が明らかになっているものです。
 
表.5つの危険因子と大腸がん

簡便なツール:スコアシートの開発

専門的には、表の偏回帰係数:β値(βは相対危険度の自然対数をとったものに相当)および10年における生存関数S(10)を用いて、10年間で大腸がんを発生する確率Pを算出しました。ただしこのやり方は少し複雑ですので、ここでは同様の原理で、より簡単な計算により大腸がんの発生確率を求めるスコアシートをご紹介します。

図. スコアシートによる大腸がん発症確率の算出の流れ

  • ステップ1:点数の当てはめ
    先の表で示された5つの危険因子(年齢、BMI、身体活動、飲酒習慣、喫煙習慣)についてカテゴリーごとに点数が割り振られています。それぞれの項目について該当する点数を求めます。
     
  • ステップ2:点数の合計
    ステップ1で求められた5つの点数を合計します。
     
  • ステップ3:10年間で大腸がんを発症する確率
    合計点数ごとに本研究で求められた確率が割り当てられます。

たとえば、年齢50才、BMI 23、身体活動 25、飲酒量300g未満/週、現在喫煙習慣ありの人の場合、スコアシートにより計算すると、
スコアの合計=年齢50才(3)+BMI 23(0)+身体活動 25(-1)+飲酒量300g未満/週(1)+現在喫煙習慣あり(1)
=3+0+(-1)+1+1
=4
したがって、10年間における大腸がんの発生確率は1.3%と計算されました。

たとえばこの例の50才の男性が年齢以外の4つの因子すべてが最もリスクの低い状態だった場合の大腸がんの発生確率はどのくらいと算出されるでしょうか。
スコアの合計=年齢50才(3)+BMI 23(0)+身体活動 25(-1)+飲酒習慣・なしまたは時々(0)+喫煙習慣なし(0)
=3+0+(-1)+0+0
=2
つまり、10年間における大腸がんの発生確率は0.7 % となります。

逆に、4つの因子がすべて最もリスクの高い状態だった場合はどうでしょう。
スコアの合計=年齢50才(3)+BMI 25以上(1)+身体活動 24.7未満(0)+飲酒量300g以上/週(2)+喫煙習慣あり(1)
=3+1+0+2+1
=7
つまり、10年間における大腸がんの発生確率は3.3 % となります。

このように、同じ年齢であっても生活習慣によって、10年間で大腸がんになる確率に差が生じます。

なお、身体活動と飲酒習慣のカテゴリーの割り振りには計算が必要ですが、以下にその目安を示します。

身体活動の単位として用いられている「メッツ・時」ですが、活動の種類と時間から計算され、この値が高いほど、身体活動が活発であることを示します。たとえば、一日のうち「座っている時間」、「歩いたり立ったりしている時間」、「睡眠時間」がそれぞれ8時間だった場合のメッツ・時は31.45となります。また、メッツ・時が24.7未満となるような活動とはそれぞれの時間が10, 3, 11時間など、起きている間でもほとんど座っているような状態です。一般的な人の日常生活であれば、メッツ・時は24.7以上(スコア-1)と考えてよいでしょう。

週1回以上飲む方の場合、飲酒量はアルコールの種類(濃度)も考慮して週当たりのアルコールの総量で表します。たとえば日本酒1合はアルコールに換算すると約23gです。これはビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度に相当します。たとえば日本酒2合あるいはビール大瓶を毎日2本以上飲むと週当たりのエタノール量は322gとなります。ご自分の普段飲んでいるお酒の種類や頻度から、週当たりのアルコール量の見当をつけることが可能です。
他の種類のお酒についても、1週間で300gに近い量とはどのくらいの飲酒量なのかを表に示しました。ご自分の普段の飲み方ではおおよそどのくらいのエタノール量になるのか見当をつけてみましょう。


お酒の種類:単位量

単位あたりの
エタノール量
(g)

一日あたりの
合(本・杯)数
毎日飲んだ場合
の週当たりの
エタノール量
(g)
日本酒:1合(180ml)で 23 2合 322
ビール:大瓶(633ml)で 23 2本 322
ウイスキー:シングル(30ml)で 10 4杯 280
ワイン:グラス(60ml)で 6 7杯 294
焼酎・泡盛:原液1合(180ml)で 36 1合 252

 

予測モデルの活用法

今回の研究では、5つの因子からその人の大腸がんの発生確率を求めるモデルを作成しました。このモデルを用いて、医師や保健従事者が臨床や公衆衛生の場で対象者のリスクを算出し、生活指導に役立てることができます。また、プログラムを組んで個人で直接計算出来るようなツールの作成も可能です。ただし、利用にあたっては、このツールの限界をよく理解しておく必要があります。
まず、今回の式は男性のみに当てはまるものです。女性の大腸がんに対するリスク因子は男性ほどはっきりしていません。今後の研究の蓄積が必要な段階です。また、今回の結果はあくまで過去の研究結果と統計的な計算式に基づいて、これからの10年間での大腸がん発生確率を単純な方法で推定したものに過ぎません。実際には、5つの因子以外にも食事要因や体質、過去の病歴などさまざまな因子の複雑な影響があり、予測されたリスクとの違いが生じます。さらに、結果の確からしさについては同じ研究の別の集団を用いて検討していますが、集団の特徴が似ているため、この結果が別の集団の個人にも当てはまるかについては、多少の疑問の余地があります。以上を踏まえた上で、この予測式を、わずか5つの因子の結果次第で大腸がんの発生する確率が異なることを実感し、ご自分のライフスタイルを見直すきっかけとして活用していただくことを提案します。

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